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コラム「研究員のココロ」

情報バリアフリーを意識した電子自治体の実現を

2003年05月12日 香川裕一


電子自治体のメリットは全ての住民に

 国が掲げる電子自治体実現の目標年度である2003年を向かえて、各自治体では、LGWANの接続や行政文書の電子化、申請・届出等手続の電子化などの整備を推進している。電子自治体の最終的な目的は、住民サービスの向上である。行政業務の効率化も重要な要素であるが、効率化の効果を住民へ還元してこそ意味がある。その意味では行政業務の効率化は道半ばである。
 このときに重要な視点が、その地域で住む人・働く人・学ぶ人など、その地域に関わる全ての人にとってメリットのある電子自治体を実現することである。すなわち、健常者だけでなく、高齢者や障害者へも十分に配慮した電子自治体を実現しなければならない。確かに、パソコンや携帯電話の急速な普及など、インターネットが我々の生活に身近なものになった。しかし、高齢者等を中心にパソコンやキーボードに不慣れな人が存在することも事実である。

 電子自治体の議論が始まった当初は、デジタルディバイドの問題がよく取り出されていた。しかし、2003年度に近づき、電子化の構想段階から実装段階に入るにつれて、多くの自治体では具体的なアプリケーションを導入することばかりに目がいき、デジタルディバイドに対する議論が後回しにされている傾向がないだろうか。

 もう一度、全ての住民にメリットを享受できる電子自治体をどのように実現すべきかということを意識しなければ、単に行政業務の効率化だけの電子自治体に終わってしまう可能性があるのではないだろうか。


まずは、ホームページからバリアフリーを実現する

 では、自治体はどのような取り組みから始めればよいであろうか。まずは各自治体で、独自のアクセシビリティポリシーというべき考え方を整理して、ホームページ作成のためのガイドラインを策定することを薦める。米国の自治体では、法律でWEBアクセシビリティの確保が義務付けられており、早くから意識されていたが、我が国では先進的な自治体を除いて、まだ不十分であるという状況である。

 今後、電子自治体化が進行する中で、ホームページによる住民とのコミュニケーションが日常的に行われるようになれば、広報担当部署や情報化担当部署だけでなく、すべての部署においてホームページの構築及び運用を行うことが必要になるであろう。

 その時に、各部署が独自にホームページを作成したのでは、フレーム構成、色使い、字の大きさやフォントなど、自治体内で統一感がなくなる可能性がある。例えば、「視覚障害者が利用できるように画像には文字による属性説明を付ける」などの対応が十分でないホームページがあると、全ての人に平等な情報提供が行われない可能性がある。

 静岡県では、「ユニバーサルデザインに配慮したホームページ作成のガイドライン」を策定して
ユニバーサルデザインの普及に努めている。この中では厳守事項と推奨事項に分けて、項目が整理されている。その他、リンクの張り方やファイル名のつけ方等についてもルール化されている。

 また、西東京市では、合併以来、ユニバーサルデザインに配慮したホームページを作成して、見易さに配慮するだけでなく、携帯電話用、Lモード用、小中学生向けのキッズページ、外国人向けの英語ページなど、様々な人を対象としたホームページを整備している。

 このように、まずは自治体として、「多くの人に平等に情報を届けよう」という姿勢が重要である。そのために、ガイドライン等を策定し、職員へ情報バリアフリーの意識を徹底させるとともに、統一感のあるホームページを作成することで、より利用しやすいホームページを構築することが求められる。


多様な手段の提供によるコミュニケーションバリアフリーの実現へ

 また、もう一つ重要な視点は、多様な手段により情報を提供するということである。たしかに情報にアクセスするという点では、ITは非常に便利なツールである。しかしながら、現状では全ての人がホームページを活用できるわけではない。大切なことは、全ての人がイコール環境で情報にアクセスできるということであるならば、行政からの情報提供においてもホームページだけでなく、市報やCATVなど多様な手段を活用し、利用者側がその手段を自由に選択できる環境を構築することが必要である。

 さらに重要なことが、上記のような異なる手段を利用する人同士が、情報交換やコミュニケーションできる環境を整備することである。すなわちコミュニケーションバリアフリーを実現することである。例えば、電子会議室を運営する時には、直接ホームページにアクセスして自分の意見を入力できる人だけが参加するのではく、FAXなどを活用することで運営者を通して電子会議室に参加することができるなど、全ての人が同じテーブルに立って議論ができる環境を構築することも求められる。

 このようなコミュニケーションバリアフリーを実現することで、あらゆる人が地域のコミュニティへ参加できるようになり、新しい地域の活気を生むことが可能になるかもしれない。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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