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コラム「研究員のココロ」

商法改正とコーポレートガバナンスと歴史に学ぶ姿勢

2003年03月31日 荒木栄


 4月1日、わが国企業のコーポレートガバナンスのあり方に一石を投じた改正商法が施行されます。

 97年にソニーが執行役員制を導入して以来、まるで堰を切ったように、監督機関である取締役会の非機能性や意思決定の遅さが指摘されてきたところへ、様々な企業不祥事が続発したため、「コーポレートガバナンス」は今や、社会的な関心事、ビジネスマンの日常用語になったように感じられます。

 このような時代背景をうけて、紆余曲折を経ながらも導入されることになった「委員会等設置会社」ですが、執行専任機関としての執行役の設置、監督機関としての社外取締役の義務づけ、指名・報酬・監査の各委員会(コミッティー)によるボード(取締役会)の機能強化という基本的なしくみが、アメリカのトップマネジメント体制をお手本としていることは明らかです。法律で規定したところは米英より進んでいるくらいでしょう。

 ところが、皮肉なことに、改正法案審議中の一昨年11月には、お手本だったはずのアメリカでエネルギー大手エンロン、5月の可決成立の2ヶ月後には通信大手ワールドコムが破綻し、社外取締役や監査法人による経営チェック体制の形骸化とコーポレートガバナンスの弱点が大きくクローズアップされることになりました。アメリカでは、監督と執行を分離して監督機関たるボード(取締役会)に利害関係を持たない社外の取締役を任命し、社外取締役が大半のボードがいくつかのコミッティーに実際の監督権限を委譲し、一方で強力な執行体制確立のため最高経営責任者(CEO)に執行権限を集中するというガバナンスの仕組みが既に確立していました。

 そもそもなぜそのような仕組みができたかというと、話は70年代初めまでさかのぼります。当時、続発した不正政治献金などの不祥事が原因で、厳しい「企業性悪説」が強まり、それから信頼回復をめざして長い時間をかけてガバナンスの仕組みを確立していったという歴史的な背景があるのです。ところが、それでもなお、形骸化が避けられず、CEOの暴走を阻止することは出来なかったというわけです。

 しかし、このような長いコーポレートガバナンス試行錯誤の歴史を持つアメリカのことですから、さっそく新しい制度改革が行われようとしています。今後ともたゆまず充実を図っていくことでしょう。例えば、ニューヨーク証券取引所では、上場基準改革案として、コーポレートガバナンス基本原則の制定と開示、社外取締役の過半数化、経営陣を含まない取締役のみによる定例会合の義務づけなどを予定していますし、GE(ゼネラル・エレクトリック)などではこれ以上に厳しい基本原則を制定しています。

 このように、コーポレートガバナンスの仕組みは国民的ともいえる関心と風土のもとで熟成されてきたものですから、全く異なる仕組みが長く続いた社会や組織風土に仕組みだけをいきなり当てはめようとしてもなかなか難しい点があると思います。アメリカの仕組みに習うのであれば、その仕組みがどのような時代背景のもとで生み出されたかを十分調べ、かつ、コーポレートガバナンスの視点からさまざまな改革を続けてきた姿勢までそっくり見習わなければならないのではないでしょうか。制度をまねるのではなく、歴史に学ぶことが大切と思います。

 実は、現行商法のガバナンスの仕組みは、昭和25年に改正された条項がベースになっているのですが、これもその当時のアメリカの仕組みをそのまま取り入れたものだったのです。でも、それからアメリカでは進化発展させていき、日本では50年近く修正(監査役の権限強化)程度にとどめていたというわけです。過去の歴史に学ぶだけでなく、同時代史に学ぶ(海外の改革例を常にモニタリングする)こともさらに大切かもしれません。
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