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アジア・マンスリー 2009年11月号

【トピックス】
景気対策の継続を再確認した中国の四中全会

2009年11月04日 佐野淳也



四中全会では、景気対策の継続が再確認された。党内結束の維持を優先させ、政治的に踏み込んだ決定を回避するなか、経済運営に対する同意を確保できたことは、胡錦濤政権にとって成果といえよう。

■開催前の関心事項は政治面に集中
9月15日~18日までの4日間、中国共産党第17期中央委員会第4回全体会議(以下、四中全会)が開催された。中央委員会は現在、胡錦濤国家主席をはじめとする中央政治局のメンバーに加え、官庁の部長(大臣)や地方の党・政府のトップを含む400名弱のメンバーから構成されている(右上表)。通常、5年間の任期中に、全体会議は7回開催され、指導部人事や経済路線に関する重要決定を行ってきた。
今回の四中全会の場合、事前の関心は中央軍事委員会(軍を政治面で指導)のメンバー補充の有無など、政治面に集中しがちであった。これは、10年前の第15期中央委員会第4回全体会議において、当時の胡錦濤国家副主席を中央軍事委員会副主席に補充選出し、江沢民総書記の後継者としての地位が確定された前例から、習近平・国家副主席が中央軍事委員会副主席に選出されるとの観測が有力になっていたためである。また、事前公表された主要議題は、新情勢下での党建設(=体質改善)としか明記されなかった上、具体策への期待感を高めるような公式報道が流れたことも、政治的側面に注目が集中した一因となった。
そうした事情もあり、経済政策の観点から、四中全会に着目する見方はほとんど出ていなかった。ただし、上記の人事を決定した99年の中央委員会全体会議では、国有企業が引き続きけん引すべき業種と撤退すべき業種を分別する方針も示されている。コミュニケの中で、どのような経済運営を推進するのか、言及される可能性も否定できない。こうした事情を踏まえ、経済面からも、四中全会の決定に注目する必要があった。

■景気対策の継続等に対する党内同意を確保
四中全会終了直後の9月18日、会議に関するコミュニケが発表された。そこには、習近平・国家副主席あるいは他の指導者を中央軍事委員会メンバーに追加選出したとの記載は一切なかった(右下表)。早目に後継者を確定させた場合、党内の反発を引き起こし、指導部の結束が崩れかねないため、選出を先送りしたものと推測される。
また、政権担当能力の向上や世論の支持確保といった観点から、「党内民主」(組織内での選出方法や決定過程の透明性向上などを指す)の推進や幹部による汚職行為等の防止を掲げたものの、踏み込んだ措置は明記されていない。当初導入を期待された幹部の「財産申告公示制度」は、四中全会翌日に行われた中央規律検査委員会で、幹部に関する重大事項(例:住居や投資、家族によるビジネス)報告制度の活用しか打ち出すことができなかった。後者は既に実施されているが、報告内容は原則非公開とされ、前者ほどの抑止効果を有していない。総論としては賛成できても、各論に対する抵抗や反発は根強く、コミュニケでの言及を回避したのであろう。
こうした事情から、コミュニケにおける経済関連の記載事項の重要性が相対的に高まった。その内容は、具体的数字こそ明記されなかったものの、「今年の経済社会発展目標の実現に努力する」と述べ、政府目標である8%前後の成長確保に取り組む決意を表明している。目標の実現に向けて、7月の中央政治局会議での決定を踏襲し、「積極的な財政政策」及び「適度に緩和した金融政策」の継続、「国際金融危機の衝撃に対応する包括的計画(4兆元規模の刺激策を含む一連の景気対策を指す)」の拡充を提唱した。金融政策に関しては年央以降、当局は過熱防止策を打ち出すようになり、引き締め転換の時期や条件などが検討され始めていたものの、現段階で引き締め策を前面に押し出した場合、回復軌道に乗った景気を再び失速させかねないとの判断から、コミュニケは金融緩和策の継続を改めて強調したとみられる(右図)。
その一方、構造調整の推進や省エネ・環境対策の強化など、景気対策の推進過程で疎かになりがちな事項の取り組みを明記した。曖昧ではあるが、「各種の潜在的リスクの効果的な防止」も盛り込まれ、政策措置の執行に伴う副作用を危惧する意見にも配慮した内容となっている。ただし、コミュニケは「安定的で比較的速い経済発展」が「経済運営における第一の重要な任務」と断言しており、景気回復を最優先に取り組む姿勢は一貫している。

■景気回復優先の経済運営が当面続く見込み
 このように、四中全会で景気対策の継続という方針に対する党内の同意を確保できたことは、胡錦濤政権にとって成果といえよう。それを踏まえて今後を展望すると、経済を取り巻く環境が急変しない限り、景気回復を優先させつつ、その弊害の除去にも注力する現行方針が継続される可能性は一段と高まった。中央経済工作会議(共産党中央と中央政府[国務院]共催の会議、毎年12月上旬頃開催)の前に、方針転換を図る可能性も皆無ではない(2008年11月の国務院常務会議にて、4兆元の景気刺激策の実施を決定)ものの、それは想定外の状況(景気の急激な落ち込み、物価の高騰)に直面した場合に限定されよう。四中全会で承認を得た方針を安易に転換すれば、胡錦濤指導部の政権担当能力に対する党内外の不信感を増幅させかねないからである。 
景気対策は、今後も順調に執行されよう。景気減速を背景に、減少傾向をたどっていた歳入が5月以降前年同月比プラスに転じた。8月には年初からの歳入総額が2008年同期を初めて上回った。こうした財政状況の改善は、景気対策の推進あるいは追加を円滑にするであろう。むしろ、景気を腰折れさせることなく、資産価格の急騰を未然に防止できるのか、過熱防止策への対応が、今後注目されよう。
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