コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

ビューポイント No.2024-001

子どもコミッショナーの設置を急げ―ニュージーランドとイングランドの事例からの示唆―

2024年04月01日 池本美香


2002 年、国連子どもの権利委員会は、子どもの権利条約を批准したすべての国に、子どもの権利擁護状況の監視を行う独立機関(以下、子どもコミッショナー)が必要だという考えを明示している。現在、子どもコミッショナーは、多くの国で設置され、その役割は政策提言や子どもの権利の周知にまで広がっている。翻って、わが国はいまだ設置すらされていない。今般のこども基本法およびこども大綱のいずれにも設置についての記載がない。本稿は、子どもコミッショナーの速やかな設置に向け、わが国政府のこれまでの対応とその問題点を整理し、海外事例からわが国への示唆を得たい。

わが国政府は 1994 年の条約批准当初より、法務大臣が委嘱する人権擁護委員が、ボランティアの立場で人権相談などを行う制度で事足りるとの立場を取ってきた。昨今の子どもコミッショナー設置を求める声の広がりに対しても、①個別の権利救済は国ではなく自治体の事務であり、②施策や制度の改善提案はこども家庭審議会で行われるとの説明がなされている。もっとも、いずれも説得力に欠けている。子どもの権利条約を批准しているのは国であり、自治体で権利が救済されない場合、責任は国が負うべきである。こども家庭審議会は、内閣総理大臣等の諮問機関であり、必要な調査権限、職員、財源を得て政府から独立して活動する子どもコミッショナーとは性格が全く異なる。なにより、虐待死、いじめ苦による自殺、教員による体罰や性暴力に見られるように子どもの置かれている状況が深刻度を増している実態が、現行制度の限界を物語っている。

子どもコミッショナーを 1989 年に設置したニュージーランド、2005 年に設置したイングランドにおいても、当初は政府が設置に消極的であった。しかし、ニュージーランドでは、もともと子どもの権利自体への関心は高く、70 年代に子どもの代弁者として活動する機関や個人の制度化が構想されていた。さらに、虐待問題に対して子どもを家族から引き離すか、家族の意思を尊重するか、児童保護においてジレンマが生じており、その打開策として子どもコミッショナーの設置が浮上した側面もある。イングランドでは、子どもの権利条約批准が転換点となった。設置を求める積極的かつ効果的な運動や提言があり、公的支援機関が関わりながら防げなかった悲惨な虐待死がきっかけとなって設置に至った。いずれの国も、設置当初は政府からの独立性などに課題が指摘されたが、その後漸次の改善を経て、現在では効果的な制度として定着している。

わが国においても、子どもコミッショナーの速やかな設置に向け、政府の積極的な取り組み姿勢への転換が強く期待される。併せて、民間サイドにおける動き、具体的には子どもの権利への関心の惹起、子どもに関わる団体の連携と運動の展開、および、そうした運動を支える民間資金獲得の成否、が今後の鍵を握っている。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ