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薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言 -在宅医療・緩和ケア、医療的ケア児への対応促進、保険外業務含めた薬局機能強化について-

2024年03月29日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム


提言資料(本体)
提言資料(サマリー)

1.背景
 これまで、「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」では、国民の一生涯の健康を地域における多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備を提言してきた。2023年3月に、特にプライマリ・ケアチームを支える薬局薬剤師や保険薬局に着目し、薬局薬剤師が価値ある機能・役割を発揮し、保険薬局が薬局薬剤師の活動を支え、真のプライマリ・ケアを実現するために求められる、以下4つの取り組みを以下4つの取り組みを提言した(*1)
[提言①] 薬局薬剤師の機能・役割や価値の明確化
[提言②] 計測・改善による、薬局薬剤師の機能・役割や価値の浸透
[提言③] プライマリ・ケアチームや国民からの薬局薬剤師の認知向上
[提言④] 薬局薬剤師が機能・役割を発揮するための保険薬局のあり方

 また、2023年3月の提言以降、薬局が果たす機能・役割の実態把握、専門医療機関連携薬局および地域連携薬局による医療貢献の具体化の検討を行い、2023年10月に以下の提言を行った(*2)
[新提言①] 疾患専門性を有する薬局薬剤師の継続的な育成
[新提言②] 調剤基本料・地域支援体制加算等調剤報酬の算定要件を活用した政策誘導の継続と薬局薬剤師・保険薬局の底上げ
[新提言③] 在宅業務の拡充とタスクシェアの推進
[新提言④] KPI調査の継続によるエビデンスに基づく、価値のある薬局薬剤師・保険薬局の拡充
[新提言⑤] 認定薬局の医療貢献拡大に向けた、実態把握・エビデンス構築推進と情報発信
[新提言⑥] 地域連携薬局の報酬の適正化

 さらに、2023年10月以降、「がん以外」の専門医療機関連携薬局の可能性、保険に依存した収益構造からの脱却の可能性について検討を行ってきた。具体的には、さらなる薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向け、デスクトップ・インタビュー調査、有識者研究会における議論を行った。本提言では調査結果を踏まえ、以下の提言を行う。
[新提言⑦] 在宅医療・緩和ケア、医療的ケア児への対応促進
[新提言⑧] 保険外業務含めた薬局機能強化

2. 提言策定の手法

(1)デスクトップ調査
 記事・文献調査により、専門医療機関連携薬局の対象となり得る領域(糖尿病、認知症、心疾患(心不全)、医療的ケア児、緩和ケア)に関する国内取り組み事例、保険に依存した収益構造脱却の可能性の検討につながる国内外の活動事例の調査を実施した。

(2)デスクトップ・インタビュー調査
 デスクトップ調査を踏まえ、専門医療機関連携薬局の対象となり得る領域を深掘りするにあたり、緩和ケア・医療的ケア児(*3)に取り組む薬局3薬局と、保険外収益につながる活動を推進する1薬局、計4薬局に対するインタビュー調査を実施した。

(3)有識者研究会における議論
 有識者(アカデミア、薬局薬剤師、医師等)9名が委員を務める「薬局価値向上研究会」を組成し、プライマリ・ケア推進における薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた機能・役割のあり方や課題、取り組み施策に関する議論・検討を行った。また、提言内容の妥当性、実現可能性への助言を受けた。
 「薬局価値向上研究会」の委員は以下の通り。



3.本提言の概要

[新提言⑦] 在宅医療・緩和ケア、医療的ケア児への対応促進

地域連携と調剤報酬のあり方
<インタビュー調査・研究会での指摘>
・緩和ケア・医療的ケア児に共通する課題として、個々の患者対応の労力に対しての収益性の低さがあり、薬局で十分なケアを提供できていない。
・同一グループ内の個々の薬局間で十分に連携体制を作ることができている薬局は、人的リソースの面からも限定的であり、また、地域での薬局間連携も十分になされていない。
・調剤報酬の観点では、安定した薬局運営を行うためには、在宅業務における地域支援体制加算の取得が必要となる。一方で、加算要件に外来店舗に求められる実績(例:夜間・休日対応実績回数)が含まれており、開局時間を長くせざるを得ない状況である。そのため、薬局を夜まで開局し、その後で在宅患者に訪問することが必要になっており、結果的に、在宅業務に対応しづらい状況になっている。
・休日に薬局を稼働させると、平日の薬剤師人材が減り、対応できない時間が生まれる等、在宅業務に対応する体制が手薄になっている。
<指摘を踏まえた提言>
 地域全体で、所属団体(業界団体、企業等)の垣根を越えた連携を推進すべきであると考えられる。そのためには、地域のリーダーシップを発揮できる薬局や、人材が必要となる。
 また、地域の医療ニーズを把握した上で、必要な機能を有した薬局の整備を進めること、そのための制度、インセンティブを整備すべきであると考えられる。さらに、地域で必要な機能を有した薬局の整備を進めるにあたり、無菌調剤含めた業務の外部委託を可能とし、特定の機能を強化した薬局の整備を推進する制度設計が必要であると考える。さらに、地域の中で、薬局間だけでなく、地域住民・患者や、他職種からも認知できるような薬局機能の周知・公表が必要であり、併せて、薬局機能の認知が進んでいるか検証を行うことが必要であると考えられる。

在宅訪問契約の制限緩和
<研究会での指摘>
・患者が在宅サービスを受けるにあたり、在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)・居宅療養管理指導料(介護保険)を算定できるのは一人の患者につき一つの薬局に限られる。そのため、他薬局によるバックアップ体制が構築されづらく、緊急時に十分な在宅サービスを提供できていない可能性がある。
・例えば麻薬調剤が関わるケースでは、薬局間での麻薬譲渡ができず、契約外の薬局が麻薬の外来対応や配達を無報酬で行うケースが発生している。
<指摘を踏まえた提言>
 契約外の薬局が活躍した際(例:麻薬調剤が関わるケース)にはその労力に対する報酬を得られるように、薬局間で委託料を支払う動きが慣例になっていくべきではないかと考える。また、麻薬調剤が関わるケースでは、事前に地域薬局間で麻薬譲渡の契約を交わし、上述のケースを回避するよう、周知を徹底すべきではないか。また、薬局が麻薬小売業者間譲渡許可制度をより利用しやすい形にすることも、必要と考える。

麻薬対応薬局と在庫・納入時期の可視化
<インタビュー調査・研究会での指摘>
・麻薬調剤を行っていた薬局が患者の事情等により調剤業務を提供できない場合に、新たにどの薬局が麻薬対応可能か、情報が分かりづらい。例えば、患者が急に遠方の医療機関に通えなくなり、地元の医療機関に通うことになった場合に、このような問題が発生している。
・医療用麻薬の保有量等の情報は薬局機能情報提供制度により都道府県ごとに公開されているが、情報の粒度・鮮度はまちまちである。
・麻薬の供給不足があり、在庫状況を可視化しても十分に供給できない可能性がある。
<指摘を踏まえた提言>
 すでに取りまとめられている各薬局の麻薬取り扱い実績について、適切に周知・公表し、他薬局や地域住民・患者が認知できるようにすることが必要であると考える。また、麻薬処方に関する地域でのフォーミュラリを決めることで、卸・薬局で在庫を確保しやすい環境を整える必要があると考える。併せて、卸の在庫状況や納入時期が薬局に対して可視化されることで、より麻薬対応環境が整備されるものと考える。

医療材料の逆ザヤの改善
<インタビュー調査での指摘>
・在宅医療・緩和ケアに用いられる医療材料は、保険償還価格に対し、納入価の方が高くなっており、薬局は取り扱うほど赤字が拡大する。
<厚生労働省の報告>
・厚生労働省の令和5年度特定保険医療材料価格調査(材料価格本調査)では、調剤全体の値ではあるが、乖離率(材料価格と実販売単価の乖離)は▲1.2%であると報告されている。
<指摘・報告を踏まえた提言>
 上述の地域でのフォーミュラリに医療材料も含めること、必要な医療材料についての公定価格見直しおよび薬局への卸価格の是正が必要であると考える。

医療的ケア児対応の検証
<インタビュー調査・研究会での指摘>
・医療的ケア児への対応には、専門性の高い知識や豊富な経験が必要とされる。そのため、素養を備えた薬局が何らかの事情で対応できなかった場合には、他の薬局に対応を求めることがある。その際に、対応のハードルの高さを理由に受け入れを断られるケースがある。
・医療的ケア児への対応には労力を要し、収益性に課題がある。ただし、令和6年度改定において新設される「在宅薬学総合体制加算2」施設要件の一つに「小児在宅患者に対する体制(在宅訪問薬剤管理指導等に係る小児特定加算および乳幼児加算の算定回数の合計6回以上/年)」が示されており、医療的ケア児への対応を積極的に進める薬局が増える要因になると考える。
<指摘を踏まえた提言>
 令和6年度改定をきっかけとし、医療的ケア児への対応を積極的に進める薬局が増えてくることが想定される中で、今後医療的ケア児への対応に対するニーズ(量と質)がどの程度充足されていくのか、検証が必要である。具体的には、小児特定加算や在宅薬学総合体制加算2の算定実績を有する薬局数や、その算定実績をもって検証することを想定する。仮にニーズが充足されない場合には、その原因を整理し、対応策を検討する必要がある。ニーズが充足されない場合の原因としては、薬局側の機能不足、医療的ケア児への対応経験豊富な薬剤師不足、教育機会不足や、患者側の薬局情報の不足や不安等が考えられる。

[新提言⑧] 保険外業務含めた薬局機能強化
<インタビュー調査・研究会での指摘>
・保険薬局が保険内業務の疾患ケアにとどまらず、薬局薬剤師の職能を生かし、地域住民の予防・健康づくりに貢献できる可能性がある。
・薬局薬剤師に加え、管理栄養士等の専門職も活用しながら、処方患者に限定しないさまざまな住民との接点を構築し、将来的に住民の生活を支えていくサービス展開の可能性がある。
<指摘を踏まえた提言>
健保組合・企業等に対する予防・健康づくり支援
 保険薬局がプライマリ・ケア拠点として、疾患ケアだけでなく予防・健康づくりにおいて、薬局薬剤師の職能を発揮するにあたり、従来の顧客である患者個人だけでなく、健保組合・企業等これまで注力していなかった新たな属性に対しても予防・健康づくりを支援していくべきであると考える。
職能に合わせたタスクシェアの推進
 薬局薬剤師が活躍するにあたり、職能に合わせたタスクシェアを推進することが考えられ、すでに議論がされているOTC、禁煙支援や、緊急避妊薬販売の拡充に加え、諸外国では薬局薬剤師に認められている予防接種の実施や、血液検査・感染症検査等の拡充等の、業務範囲の拡大を検討すべきと考える。

(*1) 株式会社日本総合研究所「薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言」(2023年3月30日)
(*2) 株式会社日本総合研究所「薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言 -保険薬局の役割に関する大規模調査・認定薬局調査を踏まえて-」(2023年10月5日)
(*3) 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年6月18日公布・同年9月18日施行)において、「「医療的ケア児」とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童(18歳未満の者及び18歳以上の者であって高等学校等(学校教育法に規定する高等学校、中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部をいう。)に在籍するものをいう。)をいう。」と定義される。

<本提言の帰属>
 本提言は、株式会社日本総合研究所「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が公正・公平な視点を心がけて、国民・医療従事者視点で中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見を取りまとめ、提示するものである。

<持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム>
本提言取りまとめ リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 川舟 広徒
社内アドバイザー 調査部 主任研究員 成瀬 道紀
社内アドバイザー リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 川崎 真規
社内メンバー リサーチ・コンサルティング部門 ⼩倉 周⼈ 長崎 俊憲 志崎 拓八

<本件に関するお問い合わせ>
マネジャー 川舟 広徒
E-mail: kawafune.hiroto@jri.co.jp

*本提言は一般社団法人日本保険薬局協会からの資金による調査研究業務の成果物ですが、その内容については「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が自由かつ独立性のある調査研究によって取りまとめたものです。


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