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人工光合成研究の有望性と民間企業に求められる役割

2024年03月26日 瀧口信一郎


 先日、人工光合成を専門とする京都大学の吉田寿雄先生との対談イベント(※1)に参加する機会がありました。カーボンニュートラル実現を目指した炭素循環のあり方を検討する「カーボンサイクル・イノベーション・コンソーシアム」(※2)を京都大学・民間企業10社と共に立ち上げたことが背景です。私自身、人工光合成の重要性を感じていたため、個人的にも、大変意義深い対談となりました。
 もともとは、二酸化炭素(CO2)から光合成によりエネルギーを得た藻類、樹木が堆積したのが化石燃料です。しかし、今後はこれを使えないのであれば、光触媒に太陽光を当てることで人工的に光合成反応を起こし、CO2から化石燃料に近い原料を生み出すことは、素材・燃料生産の有力なアプローチとなりえます。すなわち、人工光合成は将来のカーボンニュートラルに不可欠な技術となり得るのです。人工光合成の特許取得に関しては、日本は世界のトップを走り、日本の大学の研究成果は世界的にも競争力があるということです。今後の研究発展やその成果が、実に楽しみです。
 しかし、気になる話もありました。人工光合成は魅力的に映る研究領域で関心を持つ人が多い割に、研究に人が集まらないということでした。もう少し正確に言うと、吉田先生の研究室には留学生が多く、日本人の大学院生の割合が減り続けているそうです。異なる文化や教育背景を持つ人材が集まり、多様な視点で思いもよらぬ研究成果を生むことは素晴らしいのですが、日本人の若手人材育成が進まないというのは、日本の民間企業にとって将来の人工光合成の成果を逃すことにもなりかねません。
 ここで頭に浮かぶ懸念は、大学が日本人の若者にとって働く職場としての魅力を失っているかもしれないことです。そもそも大学研究者の給与は、同様の学歴を持つ人材が民間企業で働く際の給与に比べて高いとは言えません。大学が独立行政法人化されて以降、文部科学省は予算を削減し、教授ポストも削減しなくてはならなくなっています。大学はこの問題を当然認識し、改革を続けていますが、将来の日本の技術力を生み出す研究基盤が脅かされている不安を感じました。
 イベント終了後に、登壇した民間金融機関の若手の方と雑談した際に、人工光合成を始めとするカーボンニュートラルに関わる研究分野での取り組みを進めるべきだ、との前向きなコメントを聞きました。少し難しい技術内容が含まれるイベントだったとも言えますが、このような発言を聞き、大変勇気づけられました。次の世代にとって意義があれば迷わず進むべきだと思いをさらに強くしたところです。
 民間企業としてできることは、大学の研究に、より踏み込んで関与することでしょう。具体的には、基礎研究を支えるために、複数企業が資金を出し合うことなどが考えられます。技術実装に至るまでを大学に任せきりにするのではなく、積極的に関与して、技術開発の加速を自ら引き出すのです。民間企業としてのメリットを作る仕組みの設計は必要ですが、積極的な関与がなければ、人工光合成分野の日本の国際的な優位性は早晩失われるかもしれません。
 2050年を見据えたカーボンニュートラルの取組みは、若手研究者が革新的技術にどれだけ集まるかで成果の大きさとスピードが違ってきます。民間企業は将来の必要技術のため、大学の活動を共同で支援し、研究成果をいち早く実装につなげていくことが大切です。人工光合成領域への関心とそれに携わることの魅力度を上げ、研究基盤を改善できるかどうかは、日本のカーボンニュートラル技術の成否にもつながり得るでしょう。

(補足情報)
CCU・バイオリファイナリーで築く石油なき時代の地域産業(カーボンサイクル・イノベーション・コンソーシアム2023シンポジウム)を開催します。

(※1) open your …このままでいいのか?カーボンサイクル~人工光合成の可能性に迫る~
(※2) 日本総研と京都大学および京大オリジナルがカーボンニュートラルの実現を目指す連携協定を締結


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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