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JRIレビュー Vol.3,No.114

子どもの権利条約をふまえた学齢期の教育の在り方-イギリスの動向とわが国への示唆-

2024年03月05日 池本美香


2023年4月、こども基本法が施行された。その目的は、児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という)の精神にのっとったこども施策の総合的推進とされている。1994年にわが国は同条約に批准している。もっとも、こども基本法において、政策の中核をなすはずの学齢期の教育分野については「教育基本法の精神にのっとる」とされており、子どもの権利条約のあたかも適用外とされているかのようである。教育基本法は2006年に改正されたものの、その条文に子どもの権利条約が掲げる子どもの最善の利益や意見表明権などは盛り込まれていない。本稿では、まず、条約批准国に期待されている教育の在り方を確認したうえで、それに照らして、わが国の学齢期の教育の問題を整理する。次に、近年、子どもの権利条約に沿って教育を見直しているイギリスの動向を参照し、わが国への示唆を得る。

学齢期の教育に関し条約批准国には次が求められている。すなわち、教育へのアクセスの保障、子ども中心であること、いじめの根絶、子どものニーズに合わせた教育内容や教育方法の調整、子どもの自由な意見表明、および、質のモニタリングなどである。これに照らせば、わが国の学齢期の教育の問題として、大きく3点指摘できる。第1に、学校が画一的で多様性に乏しく、子どものニーズに合った学校選択が困難である。第2に、学校に通えない子どもに、教育へのアクセスが保障されていない。第3に、アクセスができても、その内容が条約批准国に期待される教育の要件を満たしていない。これらの根底には、子ども中心の教育が目的とされていない教育基本法がある。

他方、近年イギリスでは、教育に関して、子どもの権利条約に沿った様々な取り組みが進んでいる。第1に、公費で運営される学校に多様性があり、家庭の所得水準にかかわらず、子どもにあった学校選択ができる。2010年に、公費で運営され学費不要でありながら、運営の自由度が高い公営独立学校制度がスタートし、2015年度から2022年度にかけて、学校数が1.9倍、児童生徒数が1.6倍に増加している。第2に、学校に通えない子どもには、自治体や学校による代替教育の手配、もしくは選択的家庭教育という方法が採られている。代替教育は親ではなく学校や自治体が手配し、費用も自治体が負担する。家庭教育を選択した場合、費用は家庭の負担となるが、民間団体や自治体から様々な情報提供を受けられる。第3に、教育の内容や方法を「子ども中心の教育」にする様々な取り組みがある。

わが国も学齢期の教育を条約批准国に相応しいものとするため、イギリスの取り組みに倣いつつ、対応を急ぐべきである。その際、次の五つが鍵となろう。①教育基本法ではなく、子どもの権利条約にのっとった教育とする見直し、②事後的な対応ではなく予防への投資、③民間団体の活動への国の後押し、④国レベルでの教育評価機関の設置、⑤子どもコミッショナーの設置。

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