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アジア・マンスリー 2024年3月号

韓国で深刻化する世代間の雇用格差

2024年02月29日 呉 子婧


韓国の雇用環境は総じて改善している。しかし、就業状況を子細にみると、政府による施策の影響で、高齢層の雇用環境が改善する一方、若年層の雇用環境が悪化するなど世代間の格差が深刻化している。

■失業率は大きく低下
韓国では雇用環境が総じて改善している。2023 年の失業率は 2.7%と、2020 年のピークに比べて 1.3%ポイント低下した。雇用の拡大が失業率を押し下げており、就業者数はコロナ禍前の 2019 年 8 月から 2023 年 8 月にかけて 132 万人増加した。この背景には、景気の回復がある。コロナ禍による内外需の不振で景気は一時大きく落ち込んだものの、経済活動が正常化するにつれて経済成長率はコロナ禍前の巡航速度を取り戻している。

もっとも、就業者数の増加を子細にみると、世代間の格差が拡大していることが浮かび上がる。以下では、雇用を巡る二つの問題点を指摘し、その背景となった政府の各種施策について解説する。

■高齢者に偏る雇用回復
第 1 の問題点として、雇用回復が高齢層に集中しており、若年層の雇用状況はむしろ悪化している点が挙げられる。2019 年 8 月から 2023 年 8 月にかけて就業者数は 60 歳以上で最も増加(+151.8 万人)した一方、49 歳以下では減少(▲45.6 万人)している。高齢層と若年層の違いには、政府による高齢者雇用支援策が強く影響している。具体的には、①政府雇用枠の増加と②民間部門での雇用創出支援策の二つが挙げられる。

まず、政府雇用枠の増加は、公益事業、専門知識・技能活用、ESG 事業などの分野を対象に、2022 年には計 70.6 万件の雇用枠が設けられた。韓国老人人力開発院の調査によると、高齢者向けの雇用創出の実績は、2019 年に+68.4 万人、2020 年に+77.0 万人、2021 年に+83.6 万人、2022年に+88.2万人と年々増加しており、そのうち約8割が政府雇用枠によるものとされている。また、民間部門での高齢者雇用創出策も高齢層の雇用を押し上げたと考えられる。具体的には、企業が定年に達した高齢者を 1 年以上継続雇用した場合、四半期ごとに雇用者 1 人当たり 90 万ウォンが給付される予算措置などが講じられた。

こうした高齢者雇用促進策が実施された背景には、高齢者の貧困問題が深刻化していることが挙げられる。2024 年にはベビーブーム世代の多くが定年を迎えるなか、1999 年に導入された年金制度が十分に機能していないことが高齢貧困層の拡大を招いている。韓国の高齢者の相対的貧困率(等価可処分所得が所得の中央値を下回る者の割合)は 40%を超えており、OECD 加盟国の中で最も高い。こうした状況の打開に向けて政府は高齢層を対象とした雇用支援策を実施したが、結果的に、高齢層の雇用増加と引き換えに若年層の雇用減少を招いているのが実情である。

■若年層で進む非正規雇用化
第 2 の問題点として、若年層の雇用が正規から非正規にシフトしていることが挙げられる。2019年から 2023 年にかけて、30 歳以上で正規雇用の割合が上昇しているにもかかわらず、15~29 歳では正規雇用の割合が低下している。これは、政府による緊縮的な財政措置が一因となっている。政府は、公的機関の効率化を目指して公務員の定員を見直した結果、新規採用者数は2019 年の41,322 人から2023 年には21,009 人へとほぼ半減した。さらに、尹大統領が就任した後、企業向けの若者採用支援金の規模が大幅に削減されたことで、民間企業の新規採用も減少した。正社員採用の道が塞がれた若者は、非正規の求人が多い宿泊業や飲食業などに職を求めたことから、若年層の非正規比率は上昇している。

■今後も雇用格差が拡大
このように若年層に比べて高齢層を優遇する政策対応の背景には、韓国における人口動態の変化が挙げられる。2010 年代後半に総人口に占める高齢者の割合が若者の割合を超え、それ以降、両者の乖離は拡大の一途をたどっている。政府は、政権運営において高齢者の意見を重視することがこれまで以上に重要となっているため、選挙のたびに高齢者を優遇する政策が採られ、世代間の不均衡を招いている。

今後も、政府による各種支援策の効果で、高齢者雇用は引き続き拡大すると見込まれる。高齢者への雇用及び社会活動支援予算は 2024 年に前年比+31.6%増で、雇用創出目標も 103 万件に拡大した。政府は高齢労働者の処遇改善も進めており、今年から政府雇用全体で賃上げが実施される見込みである。

一方、若年層の雇用環境は引き続き悪化する可能性がある。定員が凍結されるなかで、公的機関への就職は一層困難になるとみられる。また民間企業でも、高齢層を優遇する政策が引き続き活用されることに加えて、最近では企業の間で実務経験を重視する傾向もあるため、経験の乏しい若年層の雇用が増えにくいと予想される。もちろん、政府も手をこまねいているわけではなく、若年層も含め職業訓練の拡充などの政策を実施しているものの、実際の雇用に結びつくまでには時間がかかる。若年層の雇用悪化は、目先の消費に悪影響を及ぼすだけでなく、世界的にみても低い出生率を一段と引き下げ、中長期的な成長力を低下させることが懸念される。

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