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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】岸田首相の下で露呈した裏金問題 「権力に守られている」傲慢な錯覚

2024年02月16日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 民主主義が民主主義であるためには、常に権力をチェックし過剰な権力行使を防ぐ機能が最も重要だ。今日の自民党政治にはその部分が欠けてしまっているのではないか。

 米国や英国の政治制度でも三権分立や政権交代の機能が中枢的役割を果たしている。改めて裏金問題で混迷する日本政治を考えてみたい。

米英では不可欠なチェックとバランス
 ロシアや中国など権威主義国家といわれる国においては、プーチン大統領や習近平国家主席への独裁的な権力集中は顕著だ。

 ロシアの場合には憲法改正により今年3月の大統領選挙で勝利すれば、過去の大統領経験はカウントされず、プーチン大統領はさらに6年が2期、2036年まで大統領に留まる展望が開かれる。今年3月の大統領選では有力な候補者も排除されている。

 習近平総書記も鄧小平時代以来の2期10年の総書記任期についての内規を廃し、22年以降、既に3期目に入っていて、政治局常務委員7人の集団的指導体制は名ばかりとなっている。

 権威主義国家と民主主義国家の違いは、権力の過剰な行使をチェックする仕組みが存在するかどうかだ。民主主義諸国では、選挙によって選出される行政府の長の権限はチェックされ、バランスさせる仕組みが注意深く構築されている。

 米大統領の任期は4年、再選されても計8年とされている。米大統領制の下で最も重要な概念は国民の直接投票により権力が集中しがちな大統領の権限をチェックしバランスする三権分立のシステムだ。

 大統領が権限を逸脱する場合に備え、議会の弾劾手続きが用意されているし、議会の立法に対しては大統領の拒否権が行使されうる。トランプ前大統領は在任中に権力の乱用などで2度下院の多数で弾劾訴追されたが、いずれも上院の3分の2の賛成票を得ることはなく、無罪とされた。弾劾のハードルは高いが、実際に弾劾訴追されうるというのは過剰な権力行使の抑止力として働く。

 英国の場合に権力をチェックする基本的な枠組みは2大政党間の政権交代だ。小選挙区制の選挙制度で、候補者も地縁ではなく中央からの落下傘候補者であり、与党対野党の党営選挙だ。

 選挙で敗北した野党は常に「影の内閣(Shadow Cabinet)」を組閣し、与党の政策を監視する。現在の与党は保守党であり、過去14年の長期にわたり政権の座にあるが、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、新型コロナウイルス、対露制裁後の経済混迷の影響もあり支持率は低迷し、24年中に行われると想定される選挙では労働党の有利が伝えられる。

 サッチャー首相から始まり18年続いた保守党政権も、緊張感を欠いた結果、労働党に取って代わられたが、今回も長期政権の弊害が出てきていると言われる。

日本で弱いチェックとバランスの仕組み
 日本の選挙制度は1994年の政治改革で小選挙区制が導入され、政党助成金など党が運営する選挙の色彩は強まったが、権力をチェックしバランスする政権交代は頻繁に起こったわけではなかった。

 中選挙区制で自民党の派閥が割拠した時代には選挙自体に多額の資金が必要となったが、派閥の長を首相に押し上げるプロセスで激しい競争が起こった。ある意味、派閥間でチェックとバランスの仕組みが働いていたと言える。

 ようやく、09年の衆院選で民主党が大勝して政権交代が起こったのは特記すべきであるが、民主党政権は3年という短命だった。12年以降12年にわたり再び自民党が主体となる政権が続いている。

 では、自民党1強体制が続く中で、権力をチェックしバランスさせる仕組みはどう働いたのだろうか。



続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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