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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】自民党が派閥主導から、野党が自党の枠から、抜け出せないなら

2024年01月23日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 自民党議員100人近くを擁する安倍派は長年にわたり派閥資金パーティーの収入の一部を収支報告書に記載せず何億円もの資金を裏金化してきたという。検察は法に従い立件し、関係者を訴追した。

 訴追されなかったにしてもキックバックを受け報告書記載をしなかった議員や知り得る立場にあった多くの幹部議員の政治的責任は免れない。30年前の政治改革関連法の狙いの一つは政治資金の流れを透明化するところにあったわけだが、それが機能していなかった。政治資金を規制し透明化するために必要な改革措置がとられなければならない。

 しかし、それだけで問題が終わるわけではない。背景にもっと深刻な課題があることを見過ごしてはならない。不透明な政治資金の流れだけに限らず、日本の議会制民主主義や政治家の質は劣化してしまったのではないか。

 民主主義の劣化は日本に限られているわけではなく、大統領選挙を迎える米国や欧州などにもみられる現象だ。世界が大きく変動していく今日、問題に正面から向き合い、強く安定した政治を取り返す契機として大胆に改革を進めなければならない。岸田文雄自民党総裁直属の政治刷新本部は「刷新」の名にふさわしい改革を実現するのだろうか。

頻繁な選挙はポピュリズム政策を生む
 過去30年のうち国政選挙があった年を数えると19回に及び、主要7カ国(G7)のうちでも群を抜いて多い。同じ議会制民主主義をとる英、独、伊、加などの諸国は日本の半分以下の頻度である。

 選挙で勝たなければ政権は維持できず、日本のように1~2年ごとに国政選挙を行っている国では、腰を据えて政策実現に取り組むというより、常に選挙民に受けの良い政策を追求することになってしまう。

 長期的課題は棚上げされ、バラマキ政策に走りがちとなる。いわゆるポピュリズムだ。この30年間、日本はほぼすべての経済社会分野で後退を続け、成長率、労働生産性、ジェンダー比率などの指標でG7中ほぼ最下位に沈み、一方、公的債務の国内総生産(GDP)比率は260%に達し、先進国中群を抜いて高い。政治の貧困であり、この30年、ほぼ選挙対策で政権運営が行われてきたことを如実に示している。

 衆院は4年ないし5年の固定任期制が好ましいが、そのためには憲法改正が必要となる。当面は、政治改革の議論の中で度重なる国政選挙の実施は決して国益に沿うものではなく、任期満了選挙がより好ましいという明確な認識が生じることを期待したい。

旧態依然とした自民党の体質
 1994年の選挙制度改革以前の自民党派閥は派閥の領袖(りょうしゅう)を首相に押し上げるため切磋琢磨(せっさたくま)してきたとされる。

 しかし、94年の政治改革法により小選挙区制が導入され、政党助成金制度も定められたことにより、派閥の意味は薄れ、党中央の力が強くなった。公認権は党中央にあり、政党助成金は幹事長より各議員に配分され、閣僚ポストも小泉純一郎首相の時から「一本釣り」が通常となり、派閥推薦リスト通りポストが配分されることもなくなった。

 派閥の政治資金パーティーは、派閥単位で資金を集め、資金を容易には集められない若手メンバーに配分するという、派閥復権の企てだったのかもしれない。組織的裏金作りは派閥に属するメリットを高めると考えられたのかもしれず、安倍一強体制の下では裏金作りが露呈することもないと考えたとしても不思議ではない。

 安倍政権以降、自民党の総裁は派閥の多数派工作で成立してきた。そこには長老支配が濃厚で、死去した安倍晋三元首相のほか、森喜朗元首相、麻生太郎元首相、菅義偉前首相、二階俊博元幹事長らが強い影響力を持ち続けてきた。


続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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