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アジア・マンスリー 2024年2月号

中国のデフォルト回避策が抱えるリスク

2024年01月26日 三浦有史


習近平政権は、不動産開発企業の債務不履行(デフォルト)を契機に金融危機に陥ることを警戒し、同企業向け支援策を強化している。しかし、一連の政策は将来へのリスクの先送りに過ぎない。

■最大手碧桂園もデフォルト
中国では、不動産開発企業のデフォルトが相次いでいる。2023年後半に入り、不動産開発大手恒大集団のデフォルト懸念が再び高まり、10月にはついに最大手の碧桂園もドル建て債がデフォルトと認定された。中国の不動産開発業界でトップの座を争ってきた両社の業績は急激に悪化し、恒大集団の住宅販売額は2021年に前年比▲48.4%、碧桂園は2022年に同▲39.5%となり、それ以降も販売額の減少に歯止めがかからない状態が続いている。このことは、中国経済をけん引してきた不動産開発業が転換点に差し掛かっていることを示唆する。

碧桂園の2023年1~6月期の連結決算は、売上高が前年同期比+39.4.%の2,263億元と回復したものの、保有不動産の減価により、販売費用が同+72.6%の2,506億元と、売上高を上回ったことなどから、最終損益は前年同期の6億元の黒字から一転し、489億元の赤字となった。2023年6月末の総資産額1兆6,185億元に対し、負債総額は1兆3,642億元となり、負債資産比率は84.2%である。

碧桂園は、2023年6月時点の保有現預金を短期有利子負債で除した短期債務支払能力が145.3%と、有利子負債の大きい不動産開発企業100社中34位で、恒大集団の0.7%、100位に比べ格段に高く、優良企業の一つとされてきた 。にもかかわらず、デフォルトに陥ったのは、3・4線都市における同社の販売が全体の63%を占めるように、中小都市における「薄利多売」というビジネスモデルが裏目に出たためである。

中秋節と国慶節に絡む2023年9月末からの8連休中の住宅販売面積をみると、上海、北京、広州、深圳からなる1線都市は、前年同期比+62%、コロナ禍前の2019年同期と比べても+113%と、大幅に回復したものの、3・4線都市はそれぞれ同▲50%と同▲59%となり、販売面積の減少が続いている。背景には、人口流入により底堅い住宅需要が見込める沿海大都市と、人口流出による需要の減退が不可避とみられる内陸中小都市という住宅市場の二極化が進んでいることがある。

■増える「デフォルト予備軍」
不動産開発企業のデフォルトが続く背景には、2年連続で販売面積と販売額がともに減少するという、同企業が経験したことのない厳しい環境に直面したことがある。2023年1~9月の住宅販売面積の伸び率は前年同期比▲15.1%と、前年の▲26.8%に続きマイナスとなっている。同期の住宅販売額の伸び率も同▲8.9%と、やはり、前年の▲28.3%に続きマイナスである。こうした状況下、注宅市場の右肩上がりの成長を前提に、借入金などを利用して手元資金の何倍もの投資を行い、より多くの収益を得ようとするレバレッジ経営を続けてきた不動産開発企業は軒並み資金繰りに窮することとなった。

住宅市場の低迷は2024年も続くと見込まれる。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)社は、2024年の住宅販売面積を前年比▲2%と予想し、1線都市では同+3%と回復するものの、2線都市では同+0%、3線以下の都市は同▲5%と、都市の規模によって販売面積の明暗が分かれるとしている。住宅販売額でみると、3線以下の都市が全体の5割を占めることから、S&P社は2024年の住宅販売額は同▲5%、住宅価格も同▲3%低下するとみている。

こうしたことから、いつデフォルトを起こしてもおかしくない「デフォルト予備群」に分類される不動産開発企業は今後も確実に増えるとみられる。習近平政権が、不動産開発企業のデフォルトに起因する金融危機を警戒するのは当然のことと言える。

■デフォルト回避はリスク先送り
中国政府は2021年、不動産開発企業の資金繰りが悪化したことを受け、不動産開発企業の資金繰りを支援する一方で、住宅需要を刺激するデフォルト回避策を打ち出した。これは一定の効果を発揮したものの、その後の市況の低迷により不動産開発企業の資金繰りが一段と悪化した。そのため、政府は2022年以降も、①不動産開発企業に対する新たな銀行融資枠を設定する、②不動産開発企業向け銀行融資の返済期限を1年延長する、③富裕層が複数の住宅を購入することを容認するといった、追加的な政策を打ち出した。

一連の政策は、不動産開発企業が直面する資金繰りの問題を緩和し、当座のデフォルトを減らすことに寄与したものの、本質的には将来にリスクを先送りする政策に過ぎなかったと言える。不動産開発企業の短期有利子負債は2023年1~6月期に2兆8,329億元と、2020年から7,656億元増えたのに対し、保有現金は1兆8,756億元と、2020年から1兆1,164億元も減少したように、デフォルト回避策によって同企業の財務体質が改善されることはなかったからである。

住宅需要という点からみても、不動産開発企業の再編は喫緊の課題と言える。不動産専門のシンクタンク貝殻研究院の長期住宅需要予測によれば、2016~20年の5年間で94億m2に達した住宅需要は徐々に減少し、2031~35年の5年間に69億m2になる見込みである。

中国政府は、いかにデフォルトを回避するかだけでなく、住宅需要の減退を前提として、いかに経済および社会的な影響を抑えながら不動産開発企業の再編を進めるかを中心的な課題に据える必要があると言えよう。


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