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JRIレビュー Vol.2,No.113

高齢期・終末期の支援を円滑に提供するための情報連携における自治体の役割

2024年01月15日 岡元真希子


適切な医療・介護を提供するうえで持病などの情報や本人の意思・希望を知ることが必要となるため、救急搬送時や入院・入所時に情報の伝達や手続きのために親族が呼ばれることが多い。親族のなかでもとくに子がその役割にあたることが多いが、65歳以上のうち子がいない人は9.3%、337万人と推計される。未婚率の上昇により子のいない人の割合は今後さらに増加する。加えて、寿命の延伸により死亡年齢が上昇しているため、子がいたとしても高齢のため親の支援をすることが難しい場合も増えている。

身近に親族支援者がいない高齢者を支える役割は地方自治体が担うことが多い。平常時、自治体は住民の親族支援者の有無を把握しているわけではないが、介護保険や高齢福祉サービスの提供の過程で親族情報を把握する機会もある。生活保護法・成年後見制度・墓地埋葬法などの手続きでは戸籍をたどって親族の有無と支援の意向を確認する。自治体が保有するこれらの情報に期待して、医療機関や介護事業者は、患者・入所者の親族情報を自治体に照会することがある。しかし、このような照会への対応は現場の都度判断となりバラツキがあることに加え、情報の目的外利用にあたると判断される可能性もある。

情報伝達を円滑にすることによって高齢者が適切な支援を受けやすくするため、自治体や地域の医療機関が中心となって、緊急連絡先などの情報を預かる仕組みを構築してきた。本人が登録した情報を伝達するもので、緊急連絡先情報に加え、延命治療の意向や葬儀・埋葬に関する希望などの「終活情報」を登録・伝達する取り組みがある自治体もある。

情報を預かり、伝達する役割を地方自治体が引き受けるのは合理的である。自治体はすでに多くの個人情報を扱っている実績があり、情報取扱の手順も定められている。住民にとっては追加的に提供する情報が少なくて済む。情報を必要とする医療機関・介護事業者や葬儀社などにとって照会がしやすい。自治体はあらかじめ本人から情報を預かることで情報伝達に関する都度判断や情報の目的外利用のリスクを避けることができる。

情報登録の普及促進にあたっては、緊急連絡先情報だけでなく、高齢期・終末期に必要となる情報を、高齢者本人が整理して登録する仕組みへとシフトしていくべきである。緊急連絡先のみを登録し、情報の伝達と推定を登録された親族に一任する仕組みでは、その親族に大きな負荷がかかる。親族支援者の負担を軽減するために、伝達すべき情報を本人が簡潔に示しておくことが必要である。そして、緊急連絡先が空欄でも登録を可能にすることが重要である。身近な親族支援者がいない人の支援にこそ、本人の情報や意思の推定が必要である。他方で、情報登録の仕組みを設けても登録を義務付けることはできず、周辺の支援者が情報を集めたり推定したりする状況は引き続き発生する。その場合に情報のハブになるのは地方自治体であるため、情報連携のルールを明らかにすることで、現在のような現場の都度判断を減らし、負担とリスクを軽減すべきである。現在、亡くなる人のうち子のいない人は7%であるが、2040年には21%へ増加する見込みである。親族支援者がいなくても高齢期・終末期の支援に必要な情報が伝わるよう、親族の存在を前提としない仕組みを構築していく必要がある。

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