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アジア・マンスリー 2024年1月号

中央経済工作会議から読み取る今後の中国景気

2023年12月26日 佐野淳也


中国の中央経済工作会議では、不動産不況への対応と需要の創出を核とする 2024 年の経済運営方針が示された。方向性は妥当であるものの、個別政策はインパクトを欠き、景気の急回復は見込み薄である。

■取り組みの方向性は妥当
中国では2023年12月11~12日に、中央経済工作会議が開催された。中央経済工作会議の目的は、中国共産党と政府が翌年の経済運営方針を決定することである。以下では、会議で決定された運営方針とそれが経済に及ぼす影響について整理する。

今回の中央経済工作会議では、中国経済が直面している課題を提示し、それに対する政策スタンスが決定された。政府は、①不動産不況への対応、②需要の創出の二点を中心的なテーマとして経済を運営し、「合理的な成長」を実現する方針である。

足元の中国経済が不動産不況と消費不振に苦しんでいることを踏まえると、会議で打ち出された各種の政策は現状に即したものであり、基本的な方向性は妥当といえる。

■打ち出された政策の概要
不動産不況に対する具体的な対策としては、企業の資金繰り支援の強化に向けて、物件の早期完成を促進することが打ち出された。注目点は、国有企業に加えて民間企業も支援することが表明されたことである。現在、経営難に陥っている企業の多くは、民間の大手不動産開発業者である。中国では一般的に、民間企業は国有企業に比べて金融機関から資金繰り支援を受けにくい。不動産市場の落ち込みが続くなか、政府は民間企業に対しても事業継続を支援する方針を明確にしたといえる。

さらに、中国政府は、地方政府と中小金融機関が資金繰りに窮する事態も不動産不況を巡る重大リスクと位置付け、そのリスク軽減を一体的に進める方針を示した。不動産価格の下落は、土地販売収入の増加を見込んでインフラ整備を拡大してきた地方財政に大きなマイナス影響をもたらしている。さらに、一部の「融資平台」(地方政府が設立した都市整備会社)が債務返済に苦慮していると指摘されている。仮に、融資平台の債務返済が滞った場合、その貸し手である金融機関の経営が不安化する恐れがある。そのような事態を避けるために、中国政府は、地方政府が融資平台の債務を肩代わりできるよう「特殊再融資債券」の発行を認可するほか、当局主導で事業継承や合併などの手段を用いた地方の中小金融機関の再編を進めると考えられる。

需要創出の面では、個人消費の喚起策として、健康や環境など国民のニーズが高まっている分野の市場拡大を進めるとともに、旅行、スポーツなど新しい消費エンジンの開発に注力するとした。性能や省エネの面で優れた製品への買い換えを奨励する方針も示された。様々な個別策を積み上げて、個人消費を拡大させる構えである。

設備投資の喚起策として、設備の更新を促進するほか、国際競争で優位に立つためのコア技術の向上や、環境投資の拡大などが打ち出された。そのための呼び水となるよう、公共投資を効率的に実施する方針も掲げられた。輸出促進策としては、新たなけん引役の育成に向けて、電子商取引、サービス・中間財貿易の拡大に力を入れる方針が示された。

これらの施策の効力を高めるために、金融政策では、資金の流動性確保に軸足を置いた緩和スタンスが実施される。また、中国政府は、金融機関に対して、中小零細企業や技術革新、グリーントランスフォーメーション(GX)への支援を強化するよう指示した。財政政策では、財政拡張の余地があるとの認識が明示され、財政支出拡大に前向きな姿勢がアピールされた。

■アクセルを踏み切れない姿も浮き彫りに
もっとも、総じてみれば、政府は景気回復に向けてアクセルを踏み切れておらず、対策の力不足感は否めない。

具体的にいえば、不動産不況への対応では、企業・地方政府・金融機関の破綻回避が主眼となっている。資金繰り支援以外では、すでに実施された政策も多い。住宅販売や住宅着工は長年の過剰投資や人口減少など構造的な要因も加わって減少トレンドが続いており、今般打ち出された政策による住宅需要の押し上げ効果は限定的とみられる。

財政・金融政策では、いずれも「適度」な緩和が強調されるなど、政策スタンスはなお抑制的である。とくに財政政策では、財政規律の重視も強調されており、政府は官庁や地方政府に対して大規模な歳出増を抑制するよう指示している。

消費の拡大効果も小さいとみられる。例えば、EV を含む新エネルギー自動車の購入促進が掲げられる一方、2024 年から購入時の車両取得税減免を段階的に縮小することが予定されている。政策的にアクセルとブレーキが同時に踏まれるかたちとなり、販売を押し上げる力は小さいとみられる。また、政府は所得環境の改善に取り組むと表明したものの、これに関する具体策は示されていない。

このように、中央経済工作会議から 2024 年の中国経済を展望すると、不動産不況からの脱却は期待薄であるうえ、個人消費も盛り上がりを欠くと予想され、景気の急回復は見込みにくい状況がある。2024 年通年の実質経済成長率は+4.4%と前年から減速する見通しである。

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