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【社会・環境インフラにおける政策・事業革新】
廃棄物処理PPP事業体の潜在資産を生かし、地域防災減災機能を高める

2023年12月19日 副島功寛


1.新たな事業環境に直面する廃棄物処理事業
 自治体の一般廃棄物処理を取り巻く事業環境として、処理量の減少に伴う稼働率の低下、公共組織の財政逼迫、技術人材確保の一層の困難化等、直面している厳しい状況が語られてきました。一方、多くの自治体関係者の中では廃棄物処理を行えなくなるとの切迫感まではなく、まだ将来の話として受けとめられているように感じます。
 一方、最近のいくつかの社会情勢の変化に目を向けてみると、新たな事業運営のあり方を考えざるを得ない事態に直面しています。
 一つは、物価上昇です。近年、事業に関連する資材等の物価指数が上昇基調にあり、現場では建設費や基幹改良工事費の物価スライドに係る官民協議が行われています。環境省は「廃棄物処理施設整備事業の円滑な施工確保について」(※1)と同趣旨の通知を令和4年12月に発出しており、スライド条項の適切な設定および協議への対応を求めています。今後、各自治体はこうした事業背景を考慮し、計画当初からの事業費の増額申請を受け入れざるを得ない状況です。
 二つめは、金利の上昇局面への移行です。従来は量的緩和とゼロ金利が継続する中で、資産の形成・維持・更新に要する資金調達のハードルは高くありませんでした。しかし現在、金融政策は段階的な金利水準の調整局面を迎えています(※2)。今後の金融政策により、これまでよりも補助金や起債、民間資金による資金調達が難しくなる懸念があります。
 三つめは脱炭素への対応です。自治体も自らのCO2排出をゼロにしていくことが求められますが、焼却処理を行う場合、廃棄物処理は自治体の事務事業の中でも特にCO2排出量が大きい事業となります。廃棄物発電分のうち、バイオマス分はカーボンニュートラル(CN)とみなされるものの、非バイオマス分はそうなりません。2050年のCNを達成するため、CCUS(「二酸化炭素回収・貯留」技術)等への脱炭素投資など、今後CO2排出抑制に対処する追加コストが必要となる場合、廃棄物処理事業に伴う事業費はさらにかさむ事態になりかねません。

2.廃棄物処理事業の事業領域の拡張
 こうした環境の変化を踏まえると、今後廃棄物処理の事業費上昇は避けにくく、これまでと同じ考え方では事業を維持できない自治体が増えることが懸念されます。
 この課題にどう対処していけばよいでしょうか。ひとつの方向性は「広域化」ですが、環境省は「ごみ処理の広域化及びごみ処理施設の集約化」に係る通知(※3)をすでに発出しており、検討できる自治体ではすでに広域化が進められています。また、「事業収入を増やす」方向性も考えられますが、自区外からごみを集め自らの施設でのごみ処理量を増やすことには、①住民理解の醸成、②ごみ減量施策との相反性への対応、③収集運搬に要する費用の抑制など、検討すべき実務課題が少なくありません。
 もう少し視点を変えた方向性はないでしょうか。
そのひとつとして「廃棄物処理事業の領域を、廃棄物処理以外の事業領域にも拡張すること」を考えてみたいと思います。
 つまり、廃棄物処理事業の事業資産を生かし、社会課題解決に資する新たな機能を地域社会に提供することで、事業費に対する質を高める方向性です。
 実はこうした方向性は、国が今年度掲げている官民連携に係る政策の方向性に近いものとなっています。内閣府は令和5年6月にPPP/PFIアクションプラン(※4)を公表しましたが、その中の「三つの柱」のひとつにおいて、「施設・分野を跨いだ地域の経営視点からの事業組成」を掲げています。つまり、単独事業ではなく、事業の対象範囲を広げ地域経営の視点から事業価値を高める方向性です。国土交通省も令和4年12月に「地域インフラ群再生戦略マネジメント」(※5)を公表し、地域の複数のインフラを群と捉え、事業の対象範囲を広げた包括的委託の中で新たな工夫余地を見出す方針を掲げています。
 こうした官民連携に係る政策の方向性を意識しつつ廃棄物処理事業のあり方を考えていくと、廃棄物処理事業の事業領域を拡張し新たな事業経営を担う有力な事業体候補が浮かんできます。
 それは、「廃棄物処理PPP事業体」です。日本ではPFI法施行から四半世紀近くの歴史を経る中で、廃棄物処理分野でも民間事業者が出資する「PPP事業体」が各地で組成され、事業の質を高める知見が官民に蓄積されてきました。その累積数は、100事業体以上と想定されます。(※6)一方、これまでのPPP事業は、特別目的会社がひとつの特定事業を担い、公共の要求水準に従った業務を履行することにとどまってきたともいえます。前章で述べた廃棄物処理事業が直面する事業環境を勘案すると、これまでの基本思想を転換して、廃棄物処理PPP事業体による事業領域の拡張を試行し、新たな事業経営を模索する方向性は選択肢になり得ると思われます。

3.廃棄物処理PPP事業体が担う地域防災減災に係る新たな役割
 では、廃棄物処理PPP事業体が事業領域を拡張できる有力な対象はどの分野になるのでしょうか。その可能性のひとつが、「地域防災減災」の領域です。
 昨今の自然災害の増加により、各地域では防災減災機能の強化が求められています。しかし、人員体制の縮小や財政力低下の影響が大きい自治体では、地域の防災減災を単独では担いきれなくなることが懸念されています。そこで、地域の防災減災に関わるステークホルダーを広げ、廃棄物処理のPPP事業体をその担い手のひとつに位置づけるコンセプトです。
 前述した環境省の広域化に係る通知は、今後の廃棄物処理事業のあり方を示した重要な政策方針ですが、そこでは、廃棄物処理施設の役割として、「地域防災拠点」としての役割が提示されています。廃棄物処理施設は、その耐震性の高さ等から「避難拠点」として活用されたり、発電設備を有することから「非常時の自立電源創出拠点」として活用されたり、従来から主に「ハード」面の課題に対応して、地域防災減災機能の一部を担ってきました。
 一方、地域の防災減災における主要課題はハード面にとどまりません。令和元年の台風15号・19号による被害をまとめた千葉県君津市の報告書の例では、災害時の対応として「良くなかった」と思われた点について、①職員の人員配置や配備態勢に関すること、②被害情報の収集・共有・広報に関すること、③職員の防災意識・能力に関すること、といった「ソフト」面に係る課題が挙げられています。(※7)
 廃棄物処理事業に充当できる財政資金が厳しくなる中でも、廃棄物処理PPP事業体が、上述したような災害時対応に係るソフト面の課題に貢献できるのであれば、ハード面を生かした貢献と併せて、地域防災減災において新たな役割を担える可能性があります。

4.廃棄物処理PPP事業体が所有する「潜在資産」を生かす
 では、廃棄物処理PPP事業体は災害時対応に係るソフト面の課題に対しどのような貢献ができるのでしょうか。これまであまり認知されていませんが、同事業体には、以下のような「潜在資産」があり、地域防災減災に対し新たな役割を担えるポテンシャルがあります。

①人員体制
 廃棄物処理のPPP事業体では、技術者等が常駐して施設運営を行っています。この技術者等による人員体制は、「災害廃棄物の分別や処理、住民等への分別ルールの周知」等(※8)、災害時の初動対応を支え得る地域のポテンシャルといえます。運転員には地元人材が従事することが多いですが、地域で長く働くがゆえに、今後の地域の防災減災に貢献するモチベーションは低くないと思われます。
 地域防災減災の課題のひとつとして、災害時対応のみを担う人員配置は確保しにくい点があります。平常時は施設の運転を担う人材が、非常時には防災減災対応の一部を担えると、この人員配置に係る課題を緩和できる可能性があります。地元人材としても「マルチタスク化」により新たな貢献価値が生まれ、今後、地域の人口減少が進んだとしても、地元人材一人が担う役割が拡張され、地域の防災減災機能を高める一助となります。

②地域で長期間事業を行う権利
 PPP/PFI事業契約等に基づき、地域で長期間(例:15年~20年)継続して事業に取り組める権利もあります。廃棄物処理PPP事業体は、長期での事業運営の中で、「専門人材」を育成していくことが多いため、地域防災減災に貢献する具体役割が担当者に与えられた場合、地域に根差した知見・ノウハウを組織内に蓄積しやすい特性があります。
 自治体ではジョブローテーションがあるため、防災減災を担当しても3年程度で異動するケースが少なくなく、担当者個人としては地域の防災減災にコミットし続けることは簡単ではありません。災害時対応の知見・ノウハウを地域で獲得し、蓄積していく役割を、同事業体にも拡張していくことは、地域の防災減災にとって意義があるといえます。

③一定のキャッシュフロー
 廃棄物処理事業のPPP事業体は、相応の事業規模を有するため、一定のネットキャッシュフローを生み出すことができます。通常、事業活動を通じたネットキャッシュフローはPPP事業体内に内部留保されますが、自治体に対し地元貢献の観点から事業提案を行うことで、その一部の資金を、地域防災減災機能を高める何かに「再投資」することが考えられます。ただし、事業収支への影響を勘案すれば、「小さな投資」に抑えつつも効果が期待できる必要があります。
 その投資対象として実効性が期待できるのが、「デジタル技術を活用したサービス」です。「地域防災減災に資するデジタルサービス」については、デジタル庁が「防災DXサービスマップ」(※9)を公表しており、さまざまなデジタルサービスが民間事業者により提供され、その質も高まってきています(※10)。廃棄物処理PPP事業体は、こうした防災DXサービスへの「小さな再投資」も行っていくことで、3.で示した「ソフト」面の課題に対処し、地域の防災減災機能を強化する役割を一部担える可能性があります。

④共同調達の仕組み
 広域での廃棄物処理を担うPPP事業体の場合、「広域での事務処理の枠組み」をサービス調達時に活用できる点もあります。広域で廃棄物処理を行うケースは増えていますが、広域処理のスキームが実装されることで、「複数自治体間でサービスを共同調達しやすい仕組み」が築かれることになります。この仕組みを、例えば4-③で示した「地域防災減災に資するデジタルサービス」の調達に生かすことで、地域の防災減災機能を整備する際に必要となるコストを規模の効果により低減することができます。デジタルサービスのようにその先進性から調達の目利きが難しいサービスでも、特定の自治体で実証し、導入効果を確認したうえで共同調達することも可能になります。サービス利活用開始後に蓄積されたノウハウを融通しやすい点もメリットといえます。



5.PPP事業体の事業領域拡張がもたらす「ネガティブイメージ」の転換
 廃棄物処理PPP事業体が事業領域を地域防災減災に拡張していけると、実は廃棄物処理事業自体にとっても、副次的効果が生まれます。
 それは、「施設のネガティブイメージの転換」です。廃棄物処理事業は、我々の生活にとって不可欠なインフラ事業ですが、その施設は住民にとって「迷惑施設」とみなされやすく、用地選定に時間を要するなど、事業特有の課題が指摘されてきました。一方、当該事業を担う廃棄物処理PPP事業体が地域防災減災に寄与することを住民に発信していくことで、「自然災害から住民生活を守る地域防災減災の担い手」としての役割が認知され、その存在・立地のネガティブな側面が、ポジティブなものに転換されていくと期待されます。
 廃棄物処理PPP事業体が事業領域を地域防災減災に拡張することが、住民イメージの観点から廃棄物処理事業そのものの持続可能性を高めることにつながります。

 自然災害が増加し、自治体のみでは地域防災減災を担いきれなくなる懸念がある中、各地に組成されてきた廃棄物処理PPP事業体が、廃棄物処理施設や自立電源設備等のハードに加え、上述した「潜在資産」を生かし、長期的に地域で新たな価値を生む存在となる意義は小さくないといえます。
 廃棄物処理や地域防災減災に関わる関係者間での議論を通じて、この事業領域の拡張に向けたスキームが検討され、実装されていくことが、「時代に即した持続可能な廃棄物処理事業の経営」と「地域防災減災機能の強化」という、二つの社会課題の包括的な解決策の一例となることに期待したいと考えています。


(※1)廃棄物処理施設整備事業の円滑な施工確保について(平成26年5月 環境省)
※令和4年12月にも、各都道府県一般廃棄物行政主管部(局)宛に同趣旨の事務連絡が発出されている。
(※2)イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用のさらなる柔軟化 (boj.or.jp)
※日銀は今年10月31日に開催された金融政策決定会合で、長期金利の上限について、1%を一定程度超えることを容認することとした。
(※3)持続可能な適正処理の確保に向けたごみ処理の広域化及びごみ処理施設の集約化について(通知)
(平成31年3月 環境省) 環廃産発第050325002号 (env.go.jp)
(※4)PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版) : 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室) - 内閣府 (cao.go.jp)
(※5)審議会・委員会等:総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」 ~インフラメンテナンス第2フェーズへ~ - 国土交通省 (mlit.go.jp)
(※6)廃棄物処理分野におけるPPP/PFIの推進(令和3年2月 環境省)
P11の件数グラフのうち、1999年のPFI法施行以降の「DB+O」「DBO」「BTO」「BOT」「BOO」の事業方式の累積数が、100件以上と想定。
(※7)「令和元年9・10月の風水害に関する報告書」を作成しました - 君津市公式ホームページ (kimitsu.lg.jp)
※参考:災害時の対応として「良くなかった」と思われた点について

(※8)市町村が実施すべき主な対策(フェーズ別)一覧(内閣府防災情報)
自治体が災害時の初動対応等で行う必要のある対策を示したもの。
市町村が実施すべき水害対応「9つのポイント」 (bousai.go.jp)
(※9)防災DXサービスカタログ│防災DXサービスマップ (bosai-dx.jp)
(※10)防災DXサービスの事例(例:損害保険会社)
防災ダッシュボード ~気象・災害データ×AIによる防災減災支援システム~│防災DXサービスマップ (bosai-dx.jp)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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