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高まりつつあるB Corpムーブメントの本質を考える-Regenerative Economyとはどのような社会か

2023年12月12日 水野ウィザースプーン希


 私たちチームはこの先の日本社会におけるB Corp認証の果たす役割の重要性と将来性に着目し、4月に「Bムーブメントのためのエコシステム形成」というプログラムを始動させ「シンクタンクであるJRIとして何をすればいいか」を自問しながらこれまで進んできた。

 B Corp認証は他の認証と何が違うのか。なぜ日本ではこれまであまり注目されなかったのか。B Corpの目指すシステムチェンジとはつまりどのようなビジョンで、それはこれからの日本にどのような意味があるのだろう。

 筆者はそんな問いを模索しながらこのプログラムに従事しこの一年間、抽象化と具体化を繰り返しながら一歩ずつ進んできた。そこで本寄稿では「B Corpの本質と実践」について見解を共有したいと思う。

ドーナツ経済からRegenerative Economyの実現へ
 2023年5月11日~12日、B Corp関連の国際会議として最大規模であるB For Good Leaders Summitがオランダ、アムステルダムにて開催された。この会議への参加では、単に認証企業の数を日本で増やす、といった短期的なKPIではなく、B Corpが目指す社会やシステムチェンジの本質を理解するために欠かせない大切な価値観の基盤を獲得することができた。

 会議全体を通してのメッセージは「Regenerative Economyの実現のためにはコレクティブインパクトが必要であり、そのための指針としてB Corpがある。B Corpが目指すものは社会の変革(システム・チェンジ)である」というものであった。ここで出てくるRegenerative Economy、コレクティブインパクト、そしてシステムチェンジは、いずれもB Corpの本質を理解する上でとても重要なキーワードである。B Corpやベネフィットコーポレーション推進の中心となるコミュニティが真に目指す社会というのは、「サステナビリティ」や「サーキュラー・エコノミー」の更に進んだ形である「Regenerative Economy」である。それは50年前にミルトン・フリードマンといった経済学者たちが提唱した株主至上の資本主義からの脱却であり、それを実現するためには、企業は社会性と利益性を両立させるだけではすでに足らず、顧客、環境、従業員、コミュニティ、そしてガバナンスの5つの視点において配慮が必要だと説く。そのような新しい価値観をもった企業によって構成された経済が、持続的に成長しRegenerateする「Regenerative Economy」だというビジョンである。

<参考> Evolution of Regenerative Economy

出所:Towards a Regenerative Economy (ampersand.partners)


 この考え方は英オックスフォード大学の経済学者ケイト・ラワース氏が提唱しているドーナツ経済(※)という新しい経済の概念とも、大いに親和性がある。ドーナツ経済とは自然環境を破壊することなく社会的正義(貧困や格差がない社会)を実現し、全員が豊かに繁栄するための方法論である。経済の規模は人類にとって安全で公正な範囲に留まるべきであり、この範囲を超えれば地球環境に過負荷をかける。逆に規模が小さすぎれば、人々が生活する上で必要なインフラの行き届いていない状態なのでこれもよくないとする。ラワース氏の提唱するドーナツ経済学で提唱される経済モデルとは環境再生的(Regenerative)で、分配的(Distributive)というものだ。そしてさらにその均衡が保たれている状態を目指している。理想的なサーキュラー・エコノミーを目指しながら、人・企業・社会が幸せでいること、そのためには健康な地球がなくては成り立たないという考え方は理想論のように聞こえるだろうが、このビジョンに本気で取り組んでいるのが世界各国のB Corpコミュニティであるのだ。

 B Lab の創設者たちが力強く掲げているRegenerative Economyはこのドーナツ経済の概念を、さらに一段階アグレッシブにしたものだと私は理解する。ドーナツ経済が「成長しないで繁栄する(Thrive without growing)」と提唱しているのに対し、このサミットで提唱されたRegenerateには「自家発電」のような意味が充満していた。自分たちでより自発的にエネルギーを生み出し、社会における企業の役割の変革を果たすという解説であった。この壮大なビジョンを達成するためには各国、社会、企業、個人それぞれが“Be Radical. Be Courageous. Be Disruptive. Focus on Action.”であらねばならないというのだ。


本質を踏まえて、実践していくために
 ではB Corpを一過性のブームで終わらせず、真にこれを根付かせ、Regenerative Economyという社会変革を起こすにはどうしたらいいのだろう。単にB Corp認証を取得する企業数が増えればよいのではないことは自明である。とりわけ、日本国内ではまだB Corpは一部のスタートアップのもの(12月現在、日本国内のB Corp企業は32社。世界では7500社)という印象が強いが、海外では、大学と連携するモデルや自治体と連携するモデル、さらに大企業の巻き込みやインパクト投資の担い手や融資を推進する金融機関が積極的な役割を果たす事例が出現している。様々なプレイヤーが「新しい社会のしくみ」の基盤としてB Corpを位置付けているところに、これが数ある認証制度のなかでも、影響力を有すると評価される所以であろう。そのような多角的なエコシステムを形成する上で、シンクタンクの役割も大きいと考える。私たちの歩みは今始まったところである。

(※)ドーナツ経済学とは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
Doughnut | Kate Raworth



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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