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上場インフラファンド市場の活性化に向けて~FIP/コーポレートPPAは市場拡大の一助となるか~

2023年11月13日 段野孝一郎


2012年4月の固定買取価格制度(FIT制度)の導入以降、多数の再エネ開発事業者が再エネ事業への投資を拡大する中で、上場インフラファンド市場(2015年4月開設)は、資金調達の一手段として活用されてきた。2016年6月のタカラレーベン・インフラ投資法人の新規上場を皮切りに、最盛期には7銘柄が上場したが、近年ではタカラレーベン・インフラ投資法人、日本再生可能エネルギーインフラ投資法人が相次いで非公開化し、現在は5銘柄が上場している。

そのような中、2023年3月には、上場インフラファンドの資産運用会社 5 社は、一般社団法人上場インフラファンド協議会を発足させた。上場インフラファンドの拡大・発展と上場インフラファンド市場の健全な発展に寄与することを目的に活動するとされている。

昨今のESG投資の潮流を踏まえると、投資家に再エネ市場への投資機会を与える上場インフラファンド市場はもっと活性化するべきと筆者は考えている。以下では、上場インフラファンド市場の課題と今後の活性化策について、私見を述べたい。

タカラレーベン・インフラ投資法人、日本再生可能エネルギーインフラ投資法人が非公開化に至った理由は明らかにされていないが、スポンサー企業から見ると、再エネに対する需要が高まり、再エネ事業の事業価値が高騰している点が要因の1つとして考えられる。直近のジャパン・リニューアブル・エナジー、グリーン・パワー・インベストメントに対するM&Aでも、その企業価値は非常に高く評価され、業界内でも話題になったほどだ。再エネ事業者からすると、グループの上場インフラファンドに資産を譲渡するよりも、他社に売却する方が高いリターンが見込めるため、スポンサー企業が上場インフラファンドに資産を供給するインセンティブが弱くなってしまうのは仕方ない面がある。

上場インフラファンド自身から見ると、現状のインフラファンド市場に組み入れられている資産では、成長戦略が描きにくいことも要因の1つとして考えられる。上場インフラファンドの成長戦略としては、①内部成長戦略(自社保有資産の賃料向上)、②外部成長戦略(資産取得による資産規模拡大)、③財務戦略、の3つがある。①内部成長戦略に関しては、現状ではFIT太陽光が資産の大半を占めており、賃料の原資となる再エネ発電所の売電単価が固定価格であることから、アップサイドが限定的である。また、②外部成長戦略については、前述のように、再エネ発電所の価値が高騰している状況のため、割安な価格で資産を取得することが難しいという課題がある。

しかし、2022年4月から、FIT制度に代わって、フィードインプレミアム制度(FIP制度)が導入されたことにより、上場インフラファンドの戦略にも変化が生まれるかもしれない。FIP制度では、新規発電所はもちろんのこと、既存発電所についても、FIPへの移行が認められている。FITとFIPの最も大きな違いは、FIT制度が買取事業者(送配電事業者)を補助し、FIT認定事業者は固定価格で買取事業者(送配電事業者)と契約するスキームであるため、FIT認定事業者側に売電先と売電価格の選択の自由がないことに対し、FIP制度では、FIP認定事業者にFIP交付金(プレミアム)が直接交付され、FIP認定事業者は売電先と売電価格が自由に選べる点である。また、FIT制度では固定価格に環境価値(非化石価値)が含まれているという整理になっており、FIT認定事業者には環境価値(非化石価値)が帰属しないが、FIP制度では、FIP認定事業者に環境価値(非化石価値)が帰属する点も異なる。

つまり、FIP制度では、FIP再エネの価値(非化石価値を含む)を適切に評価する需要家を見つけ、売電することで、FIT制度下では難しかった賃料上昇という内部成長戦略を取り得る可能性があるのである。

一方で、もちろん課題も存在する。FITでは「計画値同時同量」業務は不要だったが、FIPではFIP認定事業者が自ら「計画値同時同量」業務を行う必要がある。そのため、前述の内部成長戦略を実現するには、上場インフラファンドのオペレーターが、適切なオフテイカーを探すとともに、同時同量業務などの電力事業の業務にも精通する必要がある。

これらの市場環境の変化に、上場インフラファンドが対応していくのは一朝一夕ではないだろう。しかし、世界を見渡せば、カーボンニュートラルに向けて再エネの価値がますます高まっており、コーポレートPPAのような契約形態で、需要家企業が直接再エネを調達するなど、再エネを取り巻く需要家企業側の意識は大きく変貌している。さらなる上場インフラファンド市場の活性化には、上場インフラファンド事業者(投資法人、資産運用会社、オペレーター)が再エネを取り巻く環境変化を認識し、FIPやコーポレートPPAを戦略の選択肢に取り入れ、自らが保有する再エネ資産の価値最大化に努める、そのためにオペレーションを高度化していく意識を持つことが必要なのではないだろうか。

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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