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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.91

アジア新興国のトランジション・ファイナンス ―国際機関等による体制整備、インドネシア・中国・インドの動向―

2023年11月09日 清水聡


世界の温室効果ガス(GHG)排出量は、減速しながらも増加し続けている。現状を踏まえると、各国が自国の提出した「国が決定する貢献」(NDC)を達成するだけではパリ協定の目標を達成することは不可能であり、排出量ネットゼロを達成することが最低限の必須条件である。一方、アジア新興国の排出量は世界平均を上回る速度で急増し、世界の約44%を占めるに至っている。今後も、経済成長に伴って排出量の急増が続く可能性が高いことから、これを抑制することが世界的にみても非常に重要となっている。

アジア新興国のGHG排出量の約75%はエネルギー分野におけるものであることから、特に発電における石炭から再生可能エネルギーへのシフト(トランジション)が不可欠である。そのためには、カーボンプライシング制度の導入、石炭火力発電所の早期閉鎖、産業利用や道路輸送の分野を中心とした電化などが、重要な対策となる。

低炭素経済への移行とともに、これを支えるトランジション・ファイナンスを拡大する重要性が増している。そのために必要なこととして、①政府レベルの脱炭素政策の確立、②定義や基準などを明確にするための枠組みや制度、③ファイナンスを確実に行う金融システム、④トランジションを貫徹する企業側の行動、などが求められており、これらに関する様々な議論が各所で進行している。枠組み作りなどにとどまらず、トランジションを実際に先に進めていくことが求められている。

ASEAN諸国におけるエネルギー・トランジション(特に石炭のフェーズアウト)を加速させる重要性から、アジア開発銀行などによっていくつかの政策的な取り組みが開始されている。また、民間金融機関がこうした活動に参画することも重要になっているが、金融機関の投融資に伴う金融機関側の排出量(Financed Emissions)の認識方法について整理が必要となっており、そのための議論も始まっている。

先進国や中国に比較して、その他のアジア新興国ではエネルギー・トランジションに対するファイナンス金額が伸びていない。これは、国内の金融システムの未整備も一因である。この点に関しては、アジア開発銀行がアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)のなかでESG債の発行を促進しているほか、グラスゴー金融同盟(GFANZ)が地場の金融機関に技術支援や研修を行うなどの動きがみられる。

GHG排出量が大きいインドネシア・中国・インドではネットゼロの達成に向けた努力が行われているが、いずれも化石燃料への依存度が高く、取り組みの加速が求められる。

ネットゼロに向けてトランジションを推進するためには、政府による脱炭素政策の確立がきわめて重要であるとともに、国内外での「公平性の確保」が大きなポイントになると思われる。特に、削減すべき排出量の分担を各国間で公平感のあるものとするための議論が不可欠であろう。

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