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アジア・マンスリー 2023年11月号

ミスマッチで増える中国の若年失業者

2023年10月26日 佐野淳也


中国では、大卒者と採用企業の希望職種のミスマッチを主因に、若年失業者の増加が続いている。この解消は容易ではなく、若年失業者の増加が中国経済の中長期的な成長力低下につながる恐れもある。

■若者の就職難が社会問題に
中国では、若者の就職難が大きな社会問題となっている。若年層(16~24 歳)の失業率をみると、公表が始まった 2018 年以降上昇傾向をたどっており、2023 年 6 月には 21.3%と、過去最高の水準に達した。同時期の他国の若年失業率をみると、日本(15~24 歳)が 4.2%、米国(16~24 歳)が 7.5%、フランス(15~24 歳)が 16.3%であり、中国の若年失業率の高さは際立っている。

多くの国で問題視されている若者の失業問題を巡って、各国では景気の悪化や世代間の対立など、さまざまな理由が指摘されている。そうしたなか、中国の若年失業者の増加は、中国固有の理由も指摘できる。

■若年失業者の増加は大卒者の増加が原因
中国における若年失業者の増加は、需要を上回る過剰な大学進学・卒業者数の増加が主因と考えられる。国際労働機関(ILO)の労働力推計、国連の人口推計、中国政府の公表データから推計すると、2018 年からの 5 年間の累計で若年失業者は約 400 万人増加した。

一方、大学卒業者(短期大学などを含む)をみると、これも近年大幅に増加している。2018 年の大卒者が 753 万人であったのに対し、2023 年は 1,158 万人(政府見込み)に達しており、5 年間で 405 万人も増加した。これらの動きから、若年失業者の増加は、大卒者の増加分を新卒採用市場で吸収しきれなかったためと推測できる。

■大卒者の就職市場にミスマッチ
このような傾向が強まっている大きな要因は、大卒者が希望する仕事と、企業が求める人材のミスマッチである。中国において、ICT(情報通信技術)、自動車、金融といった業種は給与水準が高く、将来性もあるなどの理由から、大卒者の就職希望業種の上位に挙げられている。ところが、業種別就業者数をみると、大学生の間での人気の高さに比べてこれら業種の占める割合は限られ、需要超過にある。2022 年卒の大卒者のうち、理想とする 1 万元以上の月給を得た労働者は 6.9%にとどまり、大半は理想を大幅に下回る水準の月給(平均 5,990 元)で社会人生活をスタートさせている。

大卒者の希望と違って企業が必要としている労働者は、工場や店舗などの現場で働く労働者である。例えば、製造業では熟練工など技能労働者の不足(一説には 2025 年までに 3,000 万人)が指摘されているため、多くのメーカーでは高いスキルを持った人材の確保が急務となっているほか、商品の販売員、配達員、飲食店のホールスタッフなども深刻な人手不足に陥っている。しかし、大卒者はこれらの職種への就職希望割合は低い。

こうした就職市場のミスマッチにより、中国社会は、高等教育を受けた大勢の若者が就職できない一方、低賃金業種では人手不足が深刻化するという、二つの課題を抱えている。

■ミスマッチ解消を妨げる構造要因
大卒者の就職市場におけるミスマッチが深刻化している背景には、労働市場の需要と供給両面の構造要因が挙げられる。

労働需要面では、ICT をはじめとする高付加価値産業が人々の期待を満たすほどには育っていないことが挙げられる。中国は世界第 2 位の経済大国ではあるものの、1 人当たりGDP でみれば 13,000 ドル程度の中所得国であり、ここ数年で急増した 1,000 万人を超える大卒者の就職ニーズを満たすほど所得レベルの高いポストを用意することは難しい。

労働供給面では、一人っ子政策が長年続いた過程で、親の教育熱に拍車がかかったことが指摘できる。2021 年夏に学習塾規制が導入され、2023 年秋にも家庭教師への規制が一段と強化されたが、中国における親の教育熱はなお旺盛である。政府は学習塾への規制を強化する一方で、高考(日本の大学入学共通テストに相当)を見直す動きはなく、親の教育熱が沈静化する可能性は低い。さらに、20 年以上にわたる政府の高等教育普及策も、就職市場での職種ミスマッチの増幅に作用した可能性は否めない。

先行き、中国経済の成長ペース鈍化が予想され、大卒者が希望するような高給ポストの急増は見込みにくい。さらに、政府による企業への規制が強化され、ICT などの高付加価値産業の成長が損なわれるリスクもある。これらの点を踏まえると、就職市場でのミスマッチは今後も容易には解消されず、中期的に若年失業者数の増加が続く可能性は高い。この場合、若年期のキャリア形成でつまずくケースがさらに増え、結果的に中国経済の成長力が長期間にわたり低下する恐れがある。

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