コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

リサーチ・フォーカス No.2023-033

民主導の地域DX―鯖江市から全国に広がる草の根DXの取り組み―

2023年10月20日 野村敦子


地域社会のDXは、行政側の取り組みだけでは成り立たず、地域の住民や企業を巻き込んでいくことが重要である。そこで本稿では、民主導のDXの好事例として、「企業経営、自治体経営、住民の共同体運営が、比較的うまく絡み合ってポジティブな相互作用、好循環を生み出している」と評価されている、福井県鯖江市のケースを掘り下げた。

鯖江市は、人口7万人弱でものづくりを主要産業とする小規模自治体であるが、鯖江市役所JK課やオープンデータなどの先進的な取り組みで注目されてきた。同市では、前市長の時代に「鯖江市民主役条例」が制定され、市民が市政に主体的に参加できる環境づくりや、ITやデータを活用したまちづくりが推進されてきた。民間においても、学生が市長になったつもりで地域をより良くするアイデアを提案・具現化する「地域活性化プランコンテスト」など、全国に先駆けた取り組みが展開されている。

民間の活動が盛んな背景には、同市では市民の意識や行動力が高いことが挙げられる。DXに関しても、民間が主導する取り組みが登場しており、市のDXに関連する施策を支えている側面がある。例えば、地域のDXを支えるコミュニティとしてCode for Sabae・Code for FUKUIが活動しており、地域のDX人材を育成する場としてはHana道場がある。地域の産業に関しては、鯖江商工会議所がメタバースやVRの活用やデータプラットフォームの構築に取り組んでいる。いずれの取り組みも、鯖江市にとどまらず、県域あるいは全国に同様の活動を広げることを展望している。

鯖江市で民主導の地域DXが活発な理由として、①前市長の「市民が主役」施策により、地域の担い手の発掘や人材間の繋がり、活躍の場が創出されたこと、②ITやデータ活用の可能性を理解し、熱意と行動力を有する地域の人材が存在すること、③内発的発展を重視しながらも地域外からの資源や知恵、新しい技術などを積極的に取り入れてきたこと、などが指摘できる。

リーダー的人材(前市長)の退任や、行政の重点施策の変更、DXに関する市民の巻き込みが不十分など、他の地方自治体と共通する課題はある。もっとも、こうした課題に対し、同市では市民が自分のアイデアや能力を生かして活躍できる「市民を主役」とする施策が制度化されていることや、民間の活動が補助金に依存していないこと、草の根からの人材育成が地道に行われていることで、活動が途切れることなく継続されている。鯖江市の事例は、行政側の環境整備や人材の発掘、人材間の繋がりの支援、市民の「居場所と出番」の提供が、地域の特質とも相俟って、民間だけでも自律・自走でDXを推進できる体制が整ってきたといえ、他の地域の参考になろう。


(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ