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企業のTNFD開示対応に向けたプロセスと支援策

2023年10月24日 今泉翔一朗


 2023年9月18日、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言であるv1.0が公開されました。
 TNFD v1.0の公開を受けて、優先セクターである食品、建設、化学、アパレル等の業界をはじめ、今後、多くの上場企業では、企業活動に伴う自然への影響・依存・機会・リスクの分析・開示(以下、「自然関連の分析・開示」と呼称)が求められるようになるでしょう。また、中期的には、上場企業だけでなく、あらゆる企業が自然関連の分析・開示を求められる可能性もあります。なぜなら、TNFDでは、企業の自社操業だけでなく、バリューチェーンを含めた自然関連の分析・開示を求めており、上場企業は取引先等にも、自然関連の情報の開示を要請するようになると考えられるためです。
 とはいえ、多くの企業にとって、自然関連の分析・開示には困難が伴うことが予想されます。本稿では、企業がTNFD開示対応、さらには、その先にある、ネイチャーポジティブに資する企業活動に向けて変革を遂げていこうとするとき、どのようなプロセスを経るべきか、また、各プロセスにおける企業の支援策について整理したいと思います。

 TNFD開示やネイチャーポジティブに資する活動に向けたプロセスは、大まかに4つに区分することができると考えます(図表)。

図表 TNFD開示やネイチャーポジティブに資する活動に向けたプロセス


(出所)筆者作成


 これら4つのプロセスの中でも、②調査・分析・評価(全体像の把握)がボトルネックになる可能性があります。②調査・分析・評価(全体像の把握)は、その後のプロセスの要でありながら、現状、社外からの支援策が乏しいためです。
 ②調査・分析・評価(全体像の把握)は、次のステップに位置付けられる詳細調査で焦点とするポイントを特定することに他なりません。詳細調査には、バリューチェーンの取引先からの情報収集や、事業活動を行う場所における自然やそれに依存するステークホルダーの状況などの情報収集が必要ですが、これらを包括的に行おうとすると、相当の時間・費用・人手が発生します。そのため、事前に詳細調査で焦点とするポイントを特定することが必須なのです。
 このとき、①理解については、各シンクタンク・コンサルティングファームや金融機関等からネット等での情報発信やコンサルティングメニューが提供されています。また、③調査・分析・評価(詳細の把握)については、まだ十分とは言えませんが、衛星画像解析による土地利用変化の分析サービスなどの社外からの支援策が利用可能です。
 これに対して、②調査・分析・評価(全体像の把握)について、現状、自然関連の影響・依存・リスク・機会のすべてを分析でき、かつ、企業の分析担当者が使用しやすい支援策はほとんどないと言えます。支援サービスとしては、ENCOREのような分析ツールや絶滅危惧種レッドリストのようなデータベースが該当します。しかし、ENCOREについては、あくまでも業界別の一般論としての自然関連の情報提示になり、個社の状況に応じた分析は難しいのが現状です。また、データベースについては、絶滅危惧種、水リスク等の調査項目ごとにバラバラに存在しており、企業担当者にとって使い勝手のよい状況ではありません。
 筆者が2023年5月24日に公開した論文「企業のネイチャーポジティブ実践に向けて(前編)-自然関連インパクト評価ツールの提案-」では、事業活動データおよび事業実施地域を入力すると、事業活動と事業実施地域に応じた自然関連の正・負のインパクト評価が出力される機能を有するツールを提案しました。このツールは、②調査・分析・評価(全体像の把握)を統合的に支援するためのツールと言えます。
 自然関連インパクト評価ツールを構築するためには、事業活動と自然関連インパクトの関係性を定義するモデルとデータベースを構築する必要があります。言うなれば、気候領域における温室効果ガス排出量の算定モデルや排出係数のデータベースの自然領域版を構築することです。ただ、自然領域は、気候領域と比較しても、評価範囲が広く、かつ複雑になるため、モデルとデータベースの構築は一筋縄ではいきません。それでも、自然関連の分析・開示や企業活動の変革に取り組む動きを加速していくためには、こうしたツールが必要になると考えます。筆者は、引き続き、ツール構築に向けた具体策を検討し、新たな論を提示していきたいと思います。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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