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「ポタ電」はカーボンニュートラルの夢を見るか

2023年09月26日 新美陽大


 「ポタ電」をご存じだろうか。持ち運びができる比較的小型の蓄電池、いわゆるポータブル電源の略称だ。定置型蓄電池と比べて貯められる電気の量は小さいものの、持ち運びしやすい手軽さと購入しやすい価格が特徴となっている。
 さらに、ポタ電の隠れた魅力は、太陽光発電パネルを繋いで電気を貯められることだ。太陽光発電パネルも、蓄電池と同じく近年の性能向上で、持ち運びができる大きさと手頃な価格を実現できるようになった。
 ポタ電と太陽光発電パネルの組み合わせで、小規模ではあるが電力の自給自足が可能になる。いわば「超マイクログリッド」の完成だ。日中の日差しさえ確保できれば、どこにいても電気を使うことができることが評価され、コロナ禍でブームが高まったキャンプや車中泊、あるいは防災用途でのニーズを捉えて売上を伸ばしている。

 かく言う筆者も1年ほど前に、ポタ電と太陽光発電パネルのセットを購入した。持ち運びができる特徴を活かして、晴天時に屋外に置いて発電・蓄電しておいて、電動アシスト自転車の蓄電池を充電したり、いろいろな用途に活用している。
 実際にポタ電セットを使ってみて、まず感じた長所は「どこでも電気が使える」という感覚の素晴らしさだ。ほとんどのポタ電には、出力用に家庭用コンセントが装備されている。同じポータブルであるスマートフォン用のモバイルバッテリーには、あまり見られない特徴だ。コンセントがあれば、屋外のコンセントがない場所でも、掃除機や高圧洗浄機などの電気機器を使うことができる。
 また、電力価格の高騰が続いているところ、充電した分については電気料金を気にしなくても良いという「おトク感」も実感した。これまでは日常生活であまり意識することのなかった電気の流れが、ポタ電のモニターで「見える化」されるのも面白い。

 他方で、使ってみて分かった課題もある。太陽光発電パネルについては、発電量が予想以上に天候に左右されると感じた。雨や曇の日はもちろん、たとえ晴天の日であっても、少しでも太陽が雲に隠れてしまうと、途端に発電量はガクンと落ちる。また、パネルの汚れも発電量を下げる原因になる。花粉や黄砂の季節には、いつもよりも発電量が低いなとパネルを拭ってみて、汚れに驚くことが何度かあった。
 しかし、ポタ電とセットなら課題も克服される。発電量が日や時間によって変化しても、いざ電気を使うときに安定して利用できるのはポタ電、すなわち蓄電池があって初めて可能になるのだ。当たり前のことではあるが、実際に使う立場になってみて、太陽光発電を”普通に”使うには蓄電池が必須であることを痛感した。
 それでも、ポタ電にも違和感はあった。想定以上に、貯めた電気がすぐ無くなってしまうことだ。ポタ電の電気を何に使うのかで変わるだろうが、筆者の場合は太陽光発電パネルで数日掛けて貯めた電気を、電動アシスト自転車の蓄電池充電に使うと、ものの1~2時間ですべて使い尽くしてしまうのを何度も経験した。もっと電気を貯められる容量の大きいポタ電は、当然価格は高くなるし、発電に使う太陽光パネルも相応に大型かつ高価な製品を使わないと、何日掛けても電気が溜まらないことということも良く分かった。

 さて、世界各国は気候変動による影響を緩和するため、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を実現する必要があるとし、宣言や取組を進めている。日本も「2050年カーボンニュートラル実現」を掲げ、化石燃料から自然由来のエネルギーへの移行を進めていくとして、さまざまな政策を推し進めている。
 カーボンニュートラルを実現するための必須要件として太陽光発電の拡大が掲げられているのは、程度の差はあれども国内も海外も共通だ。だが、太陽光発電で得られた電気を、これまでどおり制約を意識せずに使うために必要な蓄電池については、太陽光発電に比べて導入が進んでいない。折しも日本国内では、電力システムで制御できる範囲を超えて電力が供給されたために、太陽光発電などによる発電を抑える「出力抑制」が、東京電力管内を除くすべてのエリアで実施される事態となっている。
 太陽光発電という自然エネルギーの「ソース」を増やすことは、エネルギーの移行を進めるための前提条件だ。ただし、発電した電気を貯めて、必要な時に使うことができる蓄電池無くしては「リソース」とは言えない。蓄電池は技術開発により、今後も性能向上と価格低下を、果たして実現し続けられるのだろうか。筆者は、自宅のポタ電セットから、カーボンニュートラル実現への道筋とその厳しさを垣間見たような気がしてならない。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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