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パーパス賞を通じたパーパスの浸透およびビジネスへの実装

2023年09月14日 段野孝一郎


 日本総研のシンクタンク・コンサルティング部門は、2021年に、当社の社会的存在意義をパーパスステートメント、「”次世代起点でありたい未来を創る。傾聴と対話で、多様な個をつなぎ、共にあらたな価値をつむいでいく。”」として言語化した。パーパスの理論研究においては、パーパスは策定だけでなく、日々の活動での実践、さらに言えば「ビジネスへの実装」が重要とされている(※1)。また、過去に掲載したコラムにおいても、「パーパスに即した行動を実践し、秀でた成果を挙げた社員を「評価」する。これは単に高い営業成績を上げた人材を表彰するのではなく、パーパスと行動指針に共感し、実際に行動に移した結果、高い成果を生み出したプロセスを称賛することが重要になる。」と主張している(岡田昌大「オーナー企業におけるパーパス経営の実践」参照)

 パーパスの理論研究を実践に移すべく、2023年度から「パーパス賞」を創設した。日本総研のシンクタンク・コンサルティング部門における「パーパスを体現した」と考えられる取り組み(受託案件に限らず、R&D、情報発信、コンソーシアム活動等の幅広い活動が対象)を、シンクタンク・コンサルティング部門の社員で広く共有し、最も共感を集めた取り組みを「パーパス賞」として表彰し、パーパスの理念浸透を図る取り組みだ。

 2023年7月6日、第1回パーパス賞の表彰セッションを開催した。会場は、自律協生社会の実現に向けて協業している武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス内に開設したコンヴィヴィスタジオとした。全15件のノミネートのうち、第1回パーパス賞として、次の4つの取り組みが表彰された。

【パーパス賞】(社員投票)
futures literacy ~「より自由に生きる」ための次世代向けプログラム提供と情報発信~(リサーチ・コンサルティング部門 未来デザインラボ)(八幡晃久
認知症の本人と企業との“共創”による「当事者参画型開発」の実証・普及促進(リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ)(紀伊信之高橋光進
シンポジウム「プライマリ・ケアを核とした地域医療の再構築」と「健康・医療政策コンソーシアム」~(調査部、リサーチ・コンサルティング部門 ヘルスケア・事業創造グループ)(西沢和彦川崎真規

【パーパス特別賞】(マネジメント推薦)
YOUTH THINKTANK(未来研)(リーダー:井上岳一青山温子富田奈央子

 「futures literacy」は、当社の未来デザインラボが実施する取り組みである。UNESCOが“futures literacy”という考え方を提唱しており、本取り組みは、futures literacy を日本に広め、わが国に生きる次世代が、より自由に生きるための一助となることを狙いとしている。小学生~大学生を対象とした futures literacyを育むプログラムの提供などは非営利の取り組みであるが、未来デザインラボのメンバーが抱く「社会に/生活者に/次世代に、何らかの形で役立ちたい」という思いを実現させる取り組みとして活動している点が、まさにパーパスを体現した取り組みとして共感を集めたと考えられる。

 「認知症の本人と企業との“共創”」は、高齢社会イノベーショングループが、経済産業省から受託している「ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(サステナブルな高齢社会実現及び当事者参画型開発普及に向けた関連事業)」の一環として実施している取り組みである。認知症になっても尊厳と希望を持って生きることができる「認知症共生社会」という未来像を目指す取り組みであること、日本総研がハブとなり、認知症本人、紹介窓口となる自治体や医療・介護関係者、製品・サービスの開発主体である企業、これらを支援するアカデミア、政府(経産省・厚労省)が連携する体制であることなどが、パーパスに合致した取り組みであると評価された。

 プライマリ・ケアの取り組みは、調査部とリサーチ・コンサルティング部門が連携した「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」の活動がベースとなっている。二部門の知見を持ち寄り、社会保障制度の財源確保の課題などに、現時点で選挙権のない「次世代」の視点も踏まえ取り組んでいる点、身近な医療従事者に日頃から健康等の相談ができ、さまざまなサービスがデジタルを活用して提供・評価・改善され、持続可能な財源で社会保障制度が提供され安心して生活できる「ありたい未来」を示している点、それらを政策提言活動に結び付けている点などが評価されたと考える。

 マネジメント推薦となったYOUTH THINKTANKは、若年層の政治参加を目的に活動している一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN(NYNJ)と共にYOUTH THINKTANK(YTT)を設立したことが契機となった活動である。YTTのプロジェクトとして、若年層自身が若年層のことを理解することを目的に、若年層の政治意識や投票行動に関する調査を実施し、その結果を踏まえた政策提言を行った。まさに次世代を意識した取り組みであること、当社のコンサルティング活動を主にリサーチ面から支えるビジネスリサーチチームが活動に大きく貢献した点などが評価された。

 以上の通り、第1回パーパス賞は、シンクタンク・コンサルティング事業の観点からは、必ずしも収益につながるものばかりではない、多彩な取り組みに光が当てられた。表彰セッション後に開催した受賞パーティでは、参加者から、「普段の業務で取り上げられる機会が少ない、しかし社会的インパクトがある取り組みを知ることができ、大きな刺激を受けた」との声が聞かれた。

 また、社員に対するアンケートから、パーパス賞に相応しい取組が何かを考えることを通じて、その理念を自分事化する効果も検証できた。パーパスを普段から意識している割合は35%だったが、パーパス賞をきっかけに、今後パーパスを意識した取り組みをしていきたいとの回答が60%に高まった。

 第1回パーパス賞を開催し、「パーパスと行動指針に共感し、実際に行動に移した結果、高い成果を生み出したプロセスを称賛すること」を通じて、パーパスの理念浸透が図れたにとどまらず、日頃から高い視座でもって活動することの大切さを参加者が改めて再確認することができた点が非常に良かったと感じている。この取り組みが、同じくパーパスを策定し、パーパスのビジネスへの実装を進めようとする企業の皆様にとって参考になれば幸いである。

 シンクタンク・コンサルティング部門では、引き続き、パーパスアクションを増やし、コンサルティングを通じた社会革新や社会インキュベーションに挑戦していきたいと考えている。






(※1) 岩嵜博論, 佐々木康裕, 井上慎平「パーパス 「意義化」する経済とその先」(NewsPicksパブリッシング 2021/8/26)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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