コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

「地域共創GXプログラム」を苫小牧で始動

2023年08月31日 苫⼩牧市⻑ 岩倉博⽂⽒、H2&DX社会研究所 FOUNDER 杉原有音氏(SUGIZO: LUNA SEA/X JAPAN/THE LAST ROCK STARS)、東博暢


 2023年9月2~3日、北海道苫小牧市で開催される野外フェス「TOMAKOMAI MIRAI FEST 2023(以下「ミライフェスト」)を皮切りに、水素利活用のエバンジェリストであるH2&DX社会研究所のFOUNDER杉原有音(SUGIZO)氏がプロデュースする「地域共創GXプログラム」が始動します。
 始動に先立ち、SUGIZO氏、岩倉博文苫小牧市長、東博暢プリンシパルが、ゼロカーボンを目指す苫小牧市で地域共創による水素利活用を推進することやミライフェストを開催することの意義や期待について、座談会を行いました。





誰もがSDGsを意識せざるを得ない時代に

東:
 本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます。SUGIZOさんはじめ我々は、カーボンニュートラル(脱炭素)に向けた取り組みを各地で進めています。今回は、苫小牧市のビジョンに深く共感し、ミライフェストに参画することとなりました。まずは、岩倉市長から、苫小牧市の脱炭素に係る取り組みをご紹介いただけますでしょうか。

市長:
 スケートが盛んな苫小牧市には、スケートリンクがいくつもあります。しかし近年では、地球温暖化の影響でスケートを滑れる時期が短くなるなど、環境問題を市民も身近に感じるようになってきています。
 苫小牧市は、製造品出荷額などで北海道全体の21%(2020年)を占める道内最大の工業都市でもあります。そこで、工場や発電所などから排出される 二酸化炭素(CO2)を大気放散する前に分離・回収し、海底の安定した地層の中で長期的に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という技術に着目するようになりました。2012年2月からは、全国 115カ所の候補地点の中から政府によって選定され、日本初の本格的なCCS実証プロジェクトを実施しています。

東:
 既に成果は出ているのですか。

市長:

 2012年度から実証試験設備の設計・建設・試運転などが行われ、2016年度には、地元企業から排出されるCO2の海底への圧入が始まりました。そして2019年には、目標としていた累計30万トンのCO2圧入を達成させています。
 実は分離・回収したCO2は、化学品や燃料、鉱物にリサイクルすることが可能です。現在では、この「カーボンリサイクル」とCCSを組み合わせた、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)に取り組んでいます。苫小牧市では、2021年に『苫小牧市「2050ゼロカーボンシティ」への挑戦を宣言し、さらに取り組みを加速させています。
 私はこうした「胸がワクワクする」ようなプロジェクトを通じて、課題解決や未来社会をデザインすることが重要とずっと申し上げております。

SUGIZO:
 素晴らしい取り組みですね。CCUSの取り組みを行っているということは、CO2排出を抑制したブルー水素が利用できることになりますね。
 今、市長がおっしゃっていた「ワクワクすること」が非常に重要なキーワードだと思います。僕が、脱炭素や環境全般に関する活動を始めたのは20数年前ですが、脱炭素を目指そう、クリーンエネルギーを広げよう、持続可能な社会を創ろう、と市民運動レベルで、ワクワクしながら取り組んでいました。
 しかし残念ながら、正直ビジネスとしては形になりませんでした。収益にならない、むしろコストがかかるという理由で多方面から冷遇され、官民が手を組んで解決しましょう、というモードには到底至りませんでした。

市長:
 20年前からそこに着目しているのはすごいですよね。

SUGIZO:
 それが今では、政治家、政府、自治体が政策の方向性を示し、大企業が環境問題に取り組むようにシフトしています。さらに、サステナブルな取り組みを進めていない企業は生き残る道が閉ざされるようにさえなってきました。既に誰もが地球環境問題については待ったなしの最優先課題であると認識し、それこそワクワクしながら取り組んでいるのではないでしょうか。
 おこがましい言い方ですが、時代がやっと僕らが理想としてきた考えに追い付いてきたという実感があります。この場所で今この会話ができているという現実が、より良い未来を残そうという意志で世の中が動き始めたということを実感させてくれ、感慨深いものがあります。まだ始まったばかりですけどね。

東:
 どのようなことがきっかけで活動を始められたのですか。

SUGIZO:
 きっかけはもっと古いですよ。きっかけは、親になったこと。娘が産まれたことによって「世の中をより良くしなきゃ!」と思うようになりました。もう27年前の話です。次の世代のため、僕らの子ども、孫、50年後、100年後、500年後、この世の中はどうなっているんでしょうか。僕らの世代に負の遺産があるとするならば、それを引き継がせるわけにはいきません。

東:
 その意味では、2015年の国連サミットの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が提唱されたのは、すごく大きな転換点となりましたね。それで一気に産業界が動き出したわけですから。

市長:
 SDGsが国連で提唱されてからの浸透の早さには驚いています。SDGsの必要性の高さを、皆が認識せざるを得ない状況にあるからだと思います。

東:
 そうですね、プラネタリー・バウンダリー、あるいは地球の限界、惑星限界とも言われていますが、人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念が身近になってきたということでしょう。人口増加による食糧危機やエネルギー問題は、人類存続に関わる喫緊の課題ですから、いかに地球環境を持続させ、人類も存続するのかが誰にとっても重要なイシューになっています。


多様なバックグラウンドを持つメンバーで水素を使ったコンサートを実現

市長:
 水素については、我々も官民協議会などで勉強する機会を持つようにしています。特に、苫小牧市でトヨタの駆動部品などを作っているトヨタ自動車北海道株式会社から、水素は自動車の燃料としてだけでなく、幅広く「エネルギー」として考えるべきだと教わったことは大きな気付きとなりました。さまざまな活用方法があるエネルギーとして捉えると、いろいろなアイデアが湧いてきます。

東:
 SUGIZOさんは、トヨタの燃料電池自動車MIRAIに乗られていて、それを活用した水素コンサートを開いています。水素をコンサートのエネルギー源として活用しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

SUGIZO:
 水素社会には以前から興味があったのですが、2016年にクールジャパン、ジャパニーズポップカルチャーをどのようにグローバルビジネスとして展開するか、というシンポジウムに参加したことが大きな契機となりました。

東:
 クールジャパン?

SUGIZO:
 パネルディスカッションの相手の方が、水素社会に関する活動を積極的にされていることを知り、ついつい壇上で水素の話をしてしまったら、ポップカルチャーより水素の話で盛り上がってしまい……(笑)
 その後、その方の紹介で、大学の水素研究者や水素関連に取り組む企業と意見交換の場を持つようになりました。MIRAIは、車として排気ガスを一切出さないばかりでなく、災害などの有事にエネルギー源として使うことが可能です。このことを知って興味を持った僕が、「電源として使えるんだったら、それでコンサートはできないんでしょうか」とその場で言ってみたらみんな面白がってくれて、話が一気に進み始めたんです。
 その1カ月後くらいには都内のスタジオに入り、専門家が何十人も集まって楽器を使った実験を行いました。実際に演奏をして、音を比べたりしているうちに、これは素晴らしいということが分かり、コンサートでの活用が始まることになったというわけです。

東:
 SUGIZOさんのようなアーティストと政治家、研究者、企業の方々など、バックグラウンドがそれぞれ異なる方々が出会い、意見交換する中で、SUGIZOさんのアイデアが創発され、現実のものとなっていくというのは大変興味深いですね。

SUGIZO:
 最近では、水素を利活用するベンチャー企業である、H2&DX社会研究所(以下「H2&DX」)に創業メンバーとしてジョインしました。専門家が集まってきて、水素利活用という観点では、かなり世界をリードしている企業になってきています。

東:
 私も市長と出会って、市長の脱炭素に関する考え方、ビジョン、何より「ワクワクしながらチャレンジされている」ことに共感し、苫小牧市の都市再生アドバイザーを務めさせていただくようになりました。そして、まさにエンターテインメントとテクノロジーを融合したワクワクした取り組みをされているSUGIZOさんとコラボすることで、新たな可能性が広がる予感がする、今につながっています。


ミライフェストでは水素社会のさまざまな可能性を感じてほしい

東:
 ワクワクする苫小牧市の取り組みと言ったらミライフェストですね。エンターテインメントの核となる音楽コンテンツに加え、アート、食、未来のテクノロジーなどを取り入れた老若男女が幅広く楽しめるイベント、まさにSUGIZOさんの取り組みの内容にピッタリだなと思い、私からSUGIZOさんに一緒にやりましょうとオファーしました。
 SUGIZOさんのこれまでの取り組みを、社会をより良くする面的なシステムとして社会に組み込んでいく絶好の機会になると考えています。

市長:
 苫小牧のふ頭は、世界で初めての本格的な人工掘り込み港湾です。会場となるキラキラ公園は、その中でも一番初めに掘った北ふ頭に位置します。そこに集まっていただいた市民の皆さんには、この港で発展してきた苫小牧の歴史を感じながら、近未来に向けたテーマに触れることで、新時代、苫小牧の未来のイメージを膨らませてもらえればと思っています。

東:
 現在日本では、2兆円のグリーンイノベーション基金を活用して、水素をはじめ脱炭素に係る研究開発や事業化に向けた取り組みが進んでいます。
 しかし、特に水素については、どのように使えばよいのかという利活用側の検討も同時に進める必要があります。今回のミライフェストは、一般の人たちにも分かりやすく伝えるショーケースになると考えています。

SUGIZO:
 我々としてもここまで大きく取り組むのは苫小牧市が初めてです。市長のビジョンと我々のビジョンが一致していますし、まさに「ワクワクすること」なんですね。
 研究側、開発側はビジネスですから、時代のニーズに応じてどんどん先に進みます。しかし、一般の方々にはそれが実感として伝わらない。それはどうしてもそうなりますよね。
 やはり僕の今の立場というのは、「こんな素晴らしい経験ができる」最先端のテクノロジーを、より多くの人々に体験してもらうための「橋渡し」でいるつもりなんです。

東:
 水素にはさまざまな可能性がありますよね。

SUGIZO:
 密接に人類と共存している水素には、水素吸引や水素風呂、そして水素ストーブなど、無限の可能性があると感じています。その利活用を、まずこういった市民の皆様が体験できるフェスでプレゼンできるというのは最高のシチュエーションになるはずです。
 ところで、僕らのコンサートで使う水素は、基本的に必ず再生可能エネルギーを利用して作られるグリーン水素としています。しかし、現在使われている水素の多くは、残念ながら化石燃料を利用して作られるグレー水素です。苫小牧は今後、グリーン水素の製造拠点になっていくとのことですが、こうしたことをミライフェストで紹介する世界でも最先端の取り組みと共に発信していくのは、本当に素晴らしいことだと思っています。

東:
 ミライフェストは水素社会の到来を誰でも実感できる機会になると思います。

SUGIZO:
 コンサートでの水素の活用は、環境に少しでも負荷をかけない方法で発電をしてエンタメをやりたい、というコンセプトからスタートした取り組みだったのですが、実は「副産物」として、水素で発電すると音のクオリティーが断然良くなることが分かったんです。遠くの発電所で生成された電気は、電線を通じて長い距離を運ばれるうちに、僕らが生活や音楽で使う頃には劣化が進んでしまいます。一方で、目の前の燃料電池で発電されたフレッシュな電気は劣化していないため、音のクオリティーが上がるのです。オーディオマニアの方には腑に落ちる話なのですが、実はこのことに水素は関係がなく、近くにある燃料電池で発電することが重要です。

東:
 料理も水素でクオリティーが上がるとうかがいました。

SUGIZO:
 そうなんです。調理でCO2を出さない方法を探求していくうちに、水素コンロというものが産まれ、その実験的なレストランは7、8年前からあったのですがそれをH2&DXで本格的に手掛けるようになりました。そのうち、ものすごくおいしいということが、これも副産物として分かったんです。

市長:
 そんなことがあるんですか。

SUGIZO:
 市長はまだ体験されてないですよね。ぜひミライフェストで味わってください。
 水素調理は、基本的にはグリル料理なんですが、水素は酸素と結合すると水になりますから、食材に対するモイスチャー効果が非常に高いという特徴があります。ですので、食材を水素調理すると外はカリカリ、中はジューシーでみずみずしい、という現象が産まれるんです。
 要はグリルとスチームが同時に行われる感覚です。すごく新しい質感で未体験のおいしさです。先日もたらふく水素料理を体験しました(笑)。
 僕自身はほとんどお肉を食べないのですが、実際にお肉を食べた方は感動されていましたし、魚介類、特に貝は絶品です。北海道ほど食材が水素料理に合うところはないと思います。

市長:
 肉のソムリエとも言われている私にとっては、とても楽しみです(笑)。

SUGIZO:
 実は先日広島で行われたG7サミットでは、牡蠣や肉など広島の地元食材を水素調理して世界のメディア関係者などにふるまいましたが、ここでも大評判でした。


域全体で「ワクワクしながら」取り組んでいくことが重要

市長:
 北海道電力苫東厚真発電所の近くにある、苫小牧市内の水素製造設備で製造した水素が先日から出荷されるようになりました。まだ1メガワット級で規模は小さいのですが、今後大きくしていきたいですね。

SUGIZO:
 卵が先か鶏が先かの話になりますが、結局、利活用がないと規模を大きくできませんから、そうしたインフラを整えることが重要と思います。

市長:
 これはある程度、政府がグリップして牽引するべきミッションであり、国家プロジェクトです。もちろん、苫小牧からも、いろいろな提案をしながら相乗効果を生み出せる取り組みにしていくつもりです。
 苫小牧が排出するCO2の7割は産業分野からですが、民生部門の脱炭素化の取り組みも進めていかねばなりません。また、特に子どもたちに対する環境教育を大事にしていきたいと考えています。

東:
 地元の大学、高専、高校、小中学校に通う若者や子どもたちが、このミライフェストで環境問題に興味を持つと同時に、脱炭素に関連するテクノロジーがこのような使い方もあるんだ、といったワクワクする体験をしてもらえる、そういうショーケースにしていきたいですね。
 さらに、今後は大学などと連携しながら、ミライフェストを学びのコンテンツにしていきたいですね。リベラルアーツとしての可能性も秘めています。

SUGIZO:
 子どもたちへの教育は間違いなく最も重要で、やはりキーワードは「ワクワク」。希望にあふれること、未来がより良くなっているはずだと思えること、そのためにみんなが未来をより良くするために僕らはここにいる、この時代を生きていると、子どもたちが当たり前にそれを感じてくれる世の中にしていきたいと思います。
 水素活用にせよ、他のサステナブルな取り組みにせよ、それが僕らの生活を豊かにしてくれて、僕らがより心地よく生きていけることが大事です。20年前は金にならない取り組みと言われ、冷遇されてきたことが、今の時代ではビジネスとして、より大きな可能性を秘めるようになっています。この重要な転換期に、子どもたちがそれらと自分たちの将来と結び付けて自ら考えてくれる、そういう環境整備が必要ですね。

市長:
 苫小牧の市民一人ひとりが、家庭で子どもたちと共にゼロカーボンのミッションを進めていくことが大事です。
 現在、苫小牧市では、「ゼロカーボン×ゼロごみ大作戦!」と称して、まちぐるみで2年間、市政の重要テーマと位置付けて活動しており、多くの市民が参加しています。

東:
 SUGIZOさん、H2&DX、そして私の所属する日本総研の3者による「地域共創GX(Green Transformation)プログラム」は、水素エネルギーをはじめとしたクリーンエネルギーを活用したさまざまな「ワクワクした」取り組みを、地域の方々と共に学び、考えながら創り上げていく活動です。カーボンニュートラルを目指すこの新しい取り組みを、そのような意識の高い方が多い苫小牧で開始できることをうれしく思います。

SUGIZO:
 素晴らしいと思うのが、一人ひとりの思考が動き始めたこと。20世紀、昭和を生きてきて、多くの日本の人々は思考が停止していたと僕は常々感じています。昔ながらのやり方ばかりを好み、新しいやり方とか新しい常識、新しい世の中のニーズになかなか付いていけない、という方も多かったのではないでしょうか。
 でも、もうこの地球は大きく変動しています。50年前と今では気候も人口も大きく変化しており、待ったなしの課題が山積している。今の時代、今この瞬間にどう我々が動くのがベストなのか、一人ひとりがもっと真剣にコミットするべきです。
 例えば、苫小牧市では、ごみのリサイクル率が全国トップレベルまで向上したと聞きますが、それは苫小牧市民の一人ひとりの意識が動き始めた結果です。
 昔ながらのやり方で、それが世の中の当たり前だと思っていたことが実は違う、自分たちが一歩動くことによって世の中のスイッチが変えられる、シフトができるということにおそらく市民の皆さんが気付いたんじゃないかなと思うんですよね。
 それを今、子どもたちが、次の世代が、当たり前に感じてくれている。僕らがこうすれば世の中が変わるんだ、という思考を小学生の頃から持ってくれると、世の中がどこまですてきになるんだろうか、と常々思うんです。
 そのような願いも込めて、今回のミライフェストに臨もうと思います。

市長:
 ありがとうございます。ぜひよろしくお願いいたします。

東:
 それでは、SUGIZOさん、市長、ありがとうございました。成功に向けてがんばりましょう。市民の皆さんも会場にぜひ体験しに来てください。

以上
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ