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アジア・マンスリー 2023年8月号

中国の政府債務は日本に次ぐ水準に

2023年07月27日 三浦有史


中国の政府債務残高は、地方融資平台(Local Government Financing Vehicles:LGFV) による隠れ債務の増加により、2027 年に GDP 比 149%と、日本に次ぐ水準となる見込みである。

■LGFV は隠れ債務の元凶
地方政府に代わって都市インフラ整備のための資金調達を担う LGFV は、中国国内でも地方政府の債務統計に反映されない「隠れ債務」を増やす元凶と見なされている。LGFV は「暗黙の政府保証」のもとで、債務を急速に増やしている。国際通貨基金(IMF)は、LGFV を含む中国全体の債務を独自に推計している。それを整理すると、次のことが指摘できる。

第 1 は、LGFV が地方政府全体の債務残高を増やす主因となっていることである。2018 年時点で 35 兆元、GDP 比 38%であった LGFV の債務残高は 2023 年に 66 兆元、同 53%と、GDP 比で 15%ポイントの上昇となる見込みである。一方、地方政府債務残高は 18 兆元、GDP 比 20%から、40 兆元、同 32%へと増加するものの、GDP 比で 12%ポイントの上昇にとどまる。LGFV の増加幅は地方政府債務より大きく、LGFV と地方政府債務を合わせた地方政府全体の債務残高はLGFV によって押し上げられたといえる。

第 2 は、隠れ債務がもはや「隠れ」という形容に相応しくない規模になっていることである。2018 年の隠れ債務は 41 兆元(GDP 比 44%)で、中央政府と地方政府を合わせた政府債務 33 兆元(同 36%)との差は 8 兆元(同 8%ポイント)であったが、隠れ債務の増加ペースが政府債務を上回ったため、2023 年の隠れ債務は 82 兆元(GDP 比 66%)となり、政府債務の 69 兆元(同55%)との差は 13 兆元(同 11%ポイント)へと、一段と拡大した。

第 3 は、LGFV が広義の企業債務残高を押し上げていることである。ここでいう広義の企業債務とは、企業債務に LGFV 債務を加えたものを指す。経済主体別にみると、債務残高そのものは企業が最も多い。しかし、2018~23 年の企業債務残高の増加幅は GDP 比でみると 8%ポイントの上昇にとどまり、LGFV の 15%ポイントを下回る。LGFV は国有企業であるため、このことは国有企業が興隆する一方で、民営企業が衰退する「国進民退」が進んでいることを表している。

■政府債務は 2027 年に日本に次ぐ水準に
LGFV の債務残高の増加は、国際的にみた中国の政府債務の位置づけにも大きな影響を与える。中国の政府債務については、地方政府債務の急拡大が懸念材料であるものの、中央政府の債務増加が抑制的であるため、全体としては深刻な水準にあるとはいえない、とされてきた。IMFの世界経済見通し(2023年4月)によれば、2022 年の中国の政府債務残高は GDP 比 77%と、データの採れる 188 カ国中 57 位で、日本(261%、1 位)、イタリア(145%、5 位)、米国(122%、12 位)、スペイン(112%、18 位)、フランス(111%、19 位)を大きく下回る。

しかし、4 兆元の景気刺激策が実行される前の2008 年から IMF が予想する 2027 年までの約20 年間の GDP 比でみた政府債務残高の増加幅と、それに伴う 2027 年の国際社会における政府債務残高の位置づけをみると、上述の評価はもはや妥当とは言えない。世界経済に与える影響が大きいG20を比較対象とすると、中国の政府債務残高の増加幅は74%ポイントと、日本の 81%ポイントに次ぐ高さで、英国(64%ポイント)、米国(61%ポイント)を上回る。2027年の政府債務残高は GDP 比 101%と、G20 のなかで 6 位となる。

ここで示した中国の値は上述した LGFV の債務を含まない。隠れ債務を含む広義の政府債務の残高を右図にプロットすると、中国の増加幅は 113%ポイントと日本を上回り、G20のなかで最大となり、2027 年の政府債務残高も GDP 比 149%と、日本に次ぐ水準となる。潜在成長率の低下に伴い、インフラ投資による景気底上げ効果に対する期待は今後一段と高まることから、隠れ債務が財政の健全性と金融の安定性を脅かす経済成長の重しとなるのは間違いない。

少子高齢化という人口構造の変化によって社会保障関連支出が増えることも、財政圧迫要因となり、中国を図の右上方向にシフトさせると見込まれる。人口高齢化により年金や医療などの支出が増えることから、財政が逼迫の度合いを増すのは明白である。財政部が 2022 年に社会保険基金に交付した補助金は 2.3 兆元である。これは LGFV の債務より規模が小さいものの、10 年間で4.3 倍と増加ペースが非常に速く、中央政府にとって最大の財政赤字要因になると見込まれる。

中国国内には、隠れ債務をこれ以上増やさないために、政府は LGFV を救済しない、つまり、債務不履行(デフォルト)を容認することで LGFV の財政規律を強化すべきだとする意見がある。しかし、個人消費と輸出が停滞しているため、景気底上げを図る数少ない政策の一つであるインフラ投資を担う LGFV に対する締め付けを強化すると、成長率が一段と低下しかねない。また、デフォルトが財政基盤の弱い地方に次々と伝播し、金融の安定性が損なわれるリスクもある。財政の健全化と経済成長の維持という二律背反の政策課題にどのように対処するのか。習近平政権の経済政策、そして、中国経済の方向性を見極める重要なポイントとなろう。

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