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EVの普及に向けた 『スマートユース』起点の電池サーキュラーエコノミー

2023年07月11日 木通秀樹


 近年、サーキュラーエコノミー(以下CE)の取り組みが加速している。気候変動や海洋プラスチック等の問題の根本原因の一つである、大量生産大量消費の経済モデルの欠点を克服する新たな成長モデルとして注目されているからである。欧州で先行した側面は否めないが、国内でも「循環経済ビジョン2020」で3R(Reduce、Reuse、Recycle)という旧来型のスローガンから包括的な循環経済への転換が提示され、CEをサステナブルな企業経営の柱の一つに据える企業も拡大している。今年3月には、グリーン成長戦略とも紐づけられた「成長志向型の資源自律経済戦略」が定められ、従来、市民活動がその担い手に位置付けられてきた同分野においても、企業が向き合う制度整備が進められようとしている。こうしたCEの取り組みの中でとりわけ注目されているのがEV電池であろう。電池を循環利用する価値が大きいことが理解され、希少金属確保や他用途利用などを行うCE構築が期待されている。

 EV電池のCE構築の最初の切り口は中古EVの販売促進となるが、そこには構造的な課題がある。EVは、電池の残存能力が分かりにくいことから、中古販売事業者にとっては顧客に説明しにくい車種である。結果として、積極的な買い入れが敬遠されがちになり、EVの中古価格は低迷している。中古価格が低迷すると、ユーザーは新車購入時において将来の買い替えをイメージし難く、リースでは残価設定が難しくなり、新車販売にも影響を及ぼしている。現在、多くの企業がカーボンニュートラルに向けてEV導入を検討しているが、リースの残価設定が低く割高となるため導入は進んでいない。他方、中古EVは国内利用が進まず、ほとんどが海外流出している。これでは、いくら高度なリサイクル技術を開発しても国内での資源循環は進まない。資源を確保してEVを普及するには、中古EVの価値を向上させ、国内利用を促進しなければならないのだ。

 当面、真っ先に注目すべきは、法人向けEV中古リース市場であろう。中古EVを活用する際には、電池の残存能力が想定より低い場合の対応など追加的な管理が求められるが、導入する企業にとっては低コストでカーボンニュートラルの目標が達成できるメリットがある。導入が進めば中古EVの需要も拡大するので中古価格が上昇し、リースアップ時の残価が向上して新車リースも拡大し、新車EVの導入も進む。新車EVが増加すれば、それに伴って国内流通する中古台数も増加し、スパイラル的にEVの導入が加速する。この結果、中古EVの海外流出の抑制によるリユース電池活用や将来の都市鉱山の確保などの国全体のメリットが得られる。
 この構造は、中古EV以降の利用プロセスにも当てはまる。廃車時に他用途利用するリユース電池の価値を適正に評価して高く販売できれば、廃車両の残価が確保されて中古EV価格が向上する。リユース電池を廃棄する際の再生材料の価値を適正に評価できればリユース電池の価格が向上する。最後に、再生材料を用いた電池の価値が適正に評価できれば、電池のみならずEVの価値が向上する、という相似な構造が存在するからである。このように、下流での利用が進むことで、上流の製品価値を向上して市場全体の価値向上が進むのがCEの特徴だ。つまり、中古EVやリユース電池などを利用すればするほど、企業はCE構築に貢献していると言えるのだ。

 ここで重要なのは、従来のサプライヤー主導の受動的な製品利用ではなく、ユーザーが積極的に中古EVの残存能力管理などを行って「賢い利用(スマートユース)」を実践することである。ただし、賢く使うにはユーザー側に管理技術が必要になる。このため、並行して賢く使うサービスの普及も求められる。シェアリングのように車両利用環境を提供するサービスは、初期のスマートユースサービサーと言える。今後、こうしたサービサーが進化していかないと利用者の拡大も進まない。電池の場合は、情報の共有だけでなく、適正リユースの確認、電池の残存能力や状態の分析、安全管理などを行いながら、電池利用環境を提供するなどの高い技術力が求められる。
 ユーザーが賢く使うことを選択すれば、それに合わせて製品も変化するようになる。制度変更によって製品の設計情報などの開示を促す方法もあるが、競争市場における企業秘密の開示は容易には進まない。ユーザーの変化こそが、持続可能な製品設計への転換を導く大きな原動力になる。

 お仕着せの製品利用から、ユーザーである企業がスマートユースに転換して積極的に中古品や他用途利用品を利用すれば、電池はCEに向かって動きだし、EV普及と資源確保が進み、サプライヤーの製品概念も変わっていく。一般には、製品が普及してからCEが構築されると考えられているが、EV市場においてはCEを構想し、実装することが市場発展の有効策となるのだ。新たに登場するスマートユーザーとスマートユースサービサーの拡大が、今後のCEの牽引役となるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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