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地方自治体における外部デジタル人材確保の留意点
~外部デジタル人材招聘の前に~

2023年07月06日 古内拓、濵本真沙希


 地方自治体において外部デジタル人材を活用する動きが、政府の旗振りの下、急速に広がっている。この昨今の潮流において、多くの自治体が外部デジタル人材の獲得に向け、積極的に取り組んでいる。
 地方自治体が外部デジタル人材を有効に活用するにあたっては、当該人材に担わせるべき役割を適切に認識する必要がある。本稿は、地方自治体の外部デジタル人材の活用における政府の方針を概観し、また地方自治体の現状と課題について触れた上で、外部デジタル人材確保を検討する際に地方自治体が留意すべきポイントについて論じる。

1.地方自治体における外部デジタル人材活用に向けた政府の指針
 デジタル社会の形成・実現に向けた政府の熱量が急速に高まっている。かねてよりデジタル分野における取り組みの重要性は広く認識されてきたところであり、特にデジタル社会実現の司令塔たるデジタル庁が2021年9月1日に発足して以降は、産官学等あらゆるプレイヤーが一体となってデジタル社会を形成・実現しようとする機運が醸成されている。
 2020年12月に決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」において、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。また、2023年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においても、同内容が「目指すべきデジタル社会のビジョン」として位置づけられており、さらに、国、地方、企業などあらゆる組織で不足が顕在化しているデジタル人材を育成・確保するため、デジタルリテラシーの向上やさまざまなプログラムを実施することとされている。
 ビジョンを実現する上で、住民に身近な地方行政を担う地方自治体が果たすべき役割は非常に重要である。「自治体DX推進計画」においては、地方自治体全体が足並みをそろえてビジョン実現に向けた取り組みを進めるために必要な体制構築や重点取り組み事項等が示されている。
 自治体DX推進計画に示された「自治体におけるDXの推進体制の構築」において、「デジタル人材の確保・育成」が謳われている。このうち、特に外部デジタル人材の確保にあたっては、CIO補佐官等の立場からICTに関する専門的な助言を行う人材などDXの推進に適した人材を、国の支援策等を活用しながら積極的に確保することが望ましいとされている。

2.地方自治体における外部デジタル人材活用に向けた「課題」と政府の「対策」
 (1)地方自治体が抱える「課題」
 地方自治体の目線でも、外部デジタル人材の活用によるメリットは大きい。しかしながら、その活用は十分に進展していない。
 総務省が全国の市区町村(1,741団体)に対して実施した調査によると、「外部デジタル人材を活用していない」と回答している団体は1,483団体となった。またこのうち、「外部デジタル人材を活用する方向で検討中」「外部デジタル人材を活用するかどうか未定」と回答した団体は1,321団体にのぼった。



 また、これらの団体が抱える課題として最も多く挙げられていたのが「外部デジタル人材に求める役割やスキルを整理・明確にすることができない」(801団体)であり、回答団体の約7割にものぼる。



 外部デジタル人材の必要性・有効性は、多くの自治体において理解され、活用に向けた検討が進んでいるものの、「外部デジタル人材の役割やスキルの整理・明確化」に関するノウハウが不足しており、結果として外部デジタル人材の招聘が進まない地方自治体の現状を読み取ることができる。

(2) 政府が実施している「対策」
 こうした状況を踏まえ、特に総務省では、地方自治体の外部デジタル人材確保に向けた支援施策をさまざま講じている。その施策の1つとして、まずは「自治体DX外部人材スキル標準」(令和4年9月総務省作成。以下「スキル標準」という。)が挙げられる。
 スキル標準は、自治体DXに携わる外部人材が備えておくことが望ましいスキルや経験を類型化したものである。具体的には、自治体DX推進に必要とされる人材像を、「プロデューサー」「プロジェクトマネージャー」「サービスデザイナー」「エンジニア」に分類し、それぞれが備えることが望ましいスキル要件やスキルレベル・資格、経験を具体的に定めている。
 また、令和5年度には、「令和5年度自治体におけるデジタル人材の確保支援事業」の中で、民間の人材サービス会社と協力し、都道府県の外部デジタル人材の確保について、確保する人材の具体的な定義や、募集・採用のプロセスを伴走的に支援するとともに、確保方法等についてガイドラインを作成することとしている。さらに、新たに都道府県等における市町村支援のためのデジタル人材の確保に係る経費等について特別交付税措置を講ずるなど、財政面での支援策も充実させることとしている。
 上記以外にも、さまざまな支援策を講ずることとしているが、いずれにしても政府の施策からは、外部デジタル人材を確保しようとする地方自治体に対し、助言的観点および財政的観点から支援しようとする姿勢が読み取れる。地方自治体としては、支援策が充実している今が、外部デジタル人材の確保のための絶好の機会といえる。

3.地方自治体における外部デジタル人材確保の留意点
 2で論じたことを踏まえれば、地方自治体は、外部デジタル人材の積極的な確保に向けて速やかに動くべき、という考え方に至るかもしれない。しかしながら、「外部デジタル人材の招聘」に動く前に、留意すべきポイントがある。
 まず、デジタル人材を確保したは良いものの、どのような役割・業務を任せるかを明確に整理しておらず、結果として外部デジタル人材を有効に活用することができないという状況に陥る地方自治体が存在することが想定される。図表2でも、「外部デジタル人材に求める役割やスキルを整理・明確にすることができない」と回答する地方自治体は801団体にのぼることが示されており、またこれに対し、政府も「スキルの整理・明確化」についての支援策は示しているものの、「役割の整理・明確化」についての対策は見えない。「役割の整理・明確化」は、地方自治体が個々の状況に応じて実施すべきであろう。
 また、地方自治体において外部からデジタル人材を確保する場合、当該人材は有期雇用となることが一般的であり、雇用期間終了後、デジタル関連施策の推進主体が不在となってしまう可能性が十分に考えられる。この状況を防ぐために、地方自治体の内部においても、「最低限自分たちが担うべきデジタル関連施策における役割」を整理し、その役割を担うことができる人材を育成することが必要となろう。

 以上を踏まえれば、外部からのデジタル人材確保にあたっては、その前段階として、まず庁内で展開するデジタル施策・事業について、「内部人材で担えること、担うべきこと」と「外部に依頼する必要があること」を整理することが望ましい。その上で、前者を担う人材を育成するために必要となる職員向けの教育・研修等を実施すること、また、後者を実現するために確保する外部人材の要件の定義・採用プロセスを実施することが必要である。



 このような整理を事前に実施しておくことで、内部職員の育成を同時に行うことができるとともに、外部デジタル人材が雇用された後に実施すべき業務を明確にすることが可能となる。
 なお、「内部人材で担えること、担うべきこと」「外部に依頼する必要があること」を整理する際には、庁内で展開するデジタル施策・事業のみを基準とするのではなく、例えば「自治体において担うべき全体の役割」を整理した上で、担うべき役割・内容を判断することも考えられる。この「自治体において担うべき全体の役割」については、総務省や情報処理推進機構(IPA)が作成している資料を参考に、どの立場の人材が、どのような役割を担うべきかを整理することが可能である。例えば、「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会報告書」(令和元年5月総務省作成)やスキル標準を基に、立場ごとの役割を図表4のとおり整理し、かつ、内部人材/外部人材が担う役割を整理することが考えられる。



 この整理を最初に実施することで、「内部人材で担えること、担うべきこと」「外部に依頼する必要があること」をより明確に整理することが可能となり、またその結果として、外部人材の要件や、任せる役割・業務を明確にすることが可能となるだろう。



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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