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リサーチ・フォーカス No.2023-009

新たな観光立国推進基本計画と今後の課題 ―コロナ禍からの「より良き再興」のために―

2023年06月06日 高坂晶子


政府は 2023 年 3 月末、2 年ぶりに観光立国推進基本計画(以下、第 4 次計画)を閣議決定した。同計画は、持続可能な形での観光立国の実現に向けて、3 つのキーワードと 3 つの戦略を打ち出している。

3 つのキーワードは、自然や社会、生活環境を保全しつつ楽しむ「持続可能な観光」、観光客数を増やすよりも観光体験の高付加価値化を通じた「消費額の拡大」、都市部の混雑回避と地方への恩恵の両得を図る「地方への誘客」である。

3 つの戦略の内容は以下の通りである。第 1 の持続可能な観光地域づくり戦略は、観光によって人口増加や経済活性化を果たした地域が、持続可能な観光を支えていく好循環を目指すものである。第 2 のインバウンド回復戦略は、多彩な観光資源を活かした高品質のコンテンツとサービスで、わが国の魅力を訴求するものである。第 3 の国内交流拡大戦略は、旅行消費の 8 割(2019 年)を占める日本人市場の維持・拡大に向け、旅行実施率の向上と新たな交流市場の開拓を図るものである。

第 4 次計画を従前と比較した場合、以下の特徴がある。第 1 は、数値目標の見直しである。観光客数を重視した第 3 次計画に対し、第 4 次計画は量ではなく観光の質を重んじる観点から、人数に依拠しない目標を採用している。第 2 は、具体的な方向性の提示である。第 4 次計画は、目指すところを端的に表すキーワードと、その方向性を具体化する戦略から成っている。これらの特徴は、観光の現場である地域が、観光振興に取り組む際の実行しやすさに配慮した結果といえる。

今後、第 4 次計画を実行に移すに当たり、以下の点に留意が必要である。まず、急速に回復する観光需要への対応である。わが国観光は順調に復調しており、一部目標は早くも達成された観がある半面、人手不足や混雑等の問題が深刻化しており、早急な対処が求められる。次に、コロナ禍で変化した観光マインドへの対応である。コロナ禍によって、それまで観光が地球環境に大きなダメージを与えていたことが明らかとなったため、欧米を中心に観光の持続可能性に対する関心が高まっている。他方、国内では、日本人の海外旅行意欲の停滞が続くなか、アウトバウンドの振興に取り組み、海外との双方向交流を実現させることが望まれる。

今後のわが国観光は、コロナ禍以前への回帰ではなく、より良き再興(Build Back Better)を目指すことが重要である。急速な事業環境の変化と、観光を取り巻く社会の趨勢や人々のマインドに目配りしつつ、3 つのキーワードに象徴される質の高い観光の追求が期待される。


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