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「ウクライナ後」にも欠かせない電力調達のフレキシビリティ

2023年03月01日 瀧口信一郎


電気料金高騰に苦しむ日本と欧州
 企業の電力コストが上昇する中、2023年6月には大手電力会社の小売電気料金が大幅に高騰することが見込まれる。原因はウクライナ戦争をきっかけとした世界的な天然ガスの価格上昇である。日本の発電構成は化石燃料に依存するため、小売電気事業者の料金メニューも、液化天然ガス(LNG)の平均輸入価格の変動に翻弄されるのである。
 また、欧州では、ウクライナ侵攻後にロシアから天然ガス供給を制限され、日本以上に電力価格が高騰している。
 例えばフランスでは、小売電気料金が1ユーロ(約140円)/kWhに高騰しており、ガラス食器メーカー・デュラレックスが2022年11月から4カ月間工場を停止するなど、工場の操業を抑制する動きが相次ぐ。
 2022年6月にロシアの国営会社ガスプロムによる海底パイプライン(ノルドストリーム)を通じた天然ガスの供給がゼロになったドイツでも、化学大手BASFがアンモニアをはじめとする化学製品の減産に追い込まれるなど、企業に多大な損害がもたらされている。

加速する太陽光発電の活用
 小売電気料金が急騰する一方で、日本の電力市場(日本卸電力取引所)では、昼間の取引価格がゼロ円を付けるという矛盾した現象が生じている。これだけ価格が下落すると、2~10円/kWhかかる送電コスト(託送料金)を加えても、20円/kWh近い小売電気料金を大きく下回ることになる。
 実はこのギャップが発生するのは、電力価格が太陽光発電の供給量に左右されやすいことが原因である。例えば、九州電力エリアでは、春や秋の冷暖房需要のない日の場合、太陽光発電の供給が1,100万kWあるのに対し、需要は800万kW程度にとどまる。太陽光発電の普及によって、電力価格は天然ガス要因から分離していく傾向にある。
 温室効果ガス削減の2030年目標を達成させるために、多くの企業では太陽光発電を自社の屋根に設置したり、太陽光の余剰電力を市場から調達したりするなど、太陽光発電を何らかの形で取り込む動きが加速すると考えられる。太陽光発電が電力価格に与える影響力は、今後ますます強まることが予想される。

電力調達に必要となる「フレキシビリティ」
 ただし、太陽光発電への依存には、自然由来のエネルギーならではリスクも伴う。太陽光発電は夜間に発電しないため、例えば工場では、市場価格が高くなる夜間の操業を避けるといった柔軟な対応が求められる。実際、すでに東京製鐵は、春と秋に操業の一部をこれまでの夜間操業から昼間操業に切り替えている。
 また、太陽光発電には気象条件の影響で発電量が急落する場合もあるため、蓄電池の導入も必要となる。蓄電池の投資コストを回収するには、安い電力を貯めて、高く売る収益モデルを検討しておかなければならない。また、長期的には、車載用蓄電池をリユースするなど、蓄電池自体のコストを抑える方策も考えておくことが重要である。
 新電力の破綻が相次ぎ、大手電力10社のうち9社で最終赤字が見込まれる中、小売電気事業者は自らの収益を確保するのに精いっぱいの状況にある。2022年4月に導入されたアグリゲーター(特定卸電気事業者)が市場に根付くのはまだこれからである。
 もう一つ問題なのは、多くの企業の期待に反し、ウクライナ戦争が終結しても、燃料市場の混乱は続くと考えられることである。というのもロシアは戦後も西側先進国と融和せず、天然ガス供給の制約が続くと予想されるからである。脱炭素に取り組む必要がある欧米オイルメジャーは、新規ガス田開発には慎重であるため、供給は制約され、市場のボラティリティは高くなる。低下しつつある天然ガス価格が2023年度半ばに燃料費調整に反映されることで、料金は一旦落ち着くとしても、長期的なリスクは高まる。電力調達において「ウクライナ前」に戻ることは期待するべきではない。
 企業は電力コストを抑制するため、調達方法についてフレキシビリティを高める視点から対応することが不可欠となる。操業時間の柔軟な組み替えやアグリゲーターを通じた電力市場の活用のほか、料金メニューの改定を小売電気事業者に働きかける、複数の事業者から調達を行う、自ら電気事業を手掛けるなどの方策も、選択肢として検討することが必要である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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