コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

JRIレビュー Vol.5,No.108

過疎法の意義を問い直す

2023年05月24日 立岡健二郎


2020年国勢調査の結果を受け、過疎市町村の数が885団体まで増加し、1970年の過疎法制定以来、初めて全国の過半数を超えた。過疎市町村は、面積では国土の6割強を占めており、地方ではすべての市町村が過疎という県もある。過疎市町村は、イメージ通り、人口が極めて少なく、高齢化率も全国平均を上回るが、一部に住民所得が高い団体も存在する。

過疎法は、もともとは時限法であったが、法律名や目的などの修正を図りつつ、現行の5次過疎法に至っている。過疎法は、過疎市町村の支援を目的とし、人口と財政の二つの要件を満たした市町村に各種支援策を施すものである。支援策の中核である過疎債は、ソフトを含めた幅広い事業に活用でき、事業費の7割を国が実質的に負担する極めて優遇度の高い措置である。

過疎対策の事業費は、51年間で累計116兆円に上り、産業振興や道路整備などに重点的に投じられてきた。2020年度の事業実績は、都道府県・市町村がそれぞれ1.5兆円の計3.1兆円であり、市町村では、その半分弱が過疎債を活用した事業である。

過疎法が初めて制定された背景を振り返ると、高度経済成長期における地方から三大都市圏への大量の人口移動および経済的格差の拡大があり、地方での人口流出が「過疎問題」として政策課題化したことがある。当時の経済・社会環境を踏まえれば、過疎法が制定されたことには、一定の意義や妥当性を見出すことができる。

しかし、過疎法制定から50年以上が経過し、現在では、制定時のような状況はほとんど見られなくなっている。そうしたなかで、過疎法では、その存在意義ともいえる立法目的の修正が図られてきたものの、現行法で定義される過疎市町村については、高齢化で人口減少ペースが若干速いだけのありふれた存在と捉えるのが妥当な見方である。自然条件等が恵まれない地域に対しては、すでに別途支援メニューが用意されており、過疎法に基づく支援を続けることの意義を見出すのは困難である。

加えて、これまでの人口流出抑制や産業振興策としての過疎対策には、目にみえる効果は確認できないほか、過疎・非過疎を一律に線引きし、過疎市町村のみに交付税措置などで厚遇することには公平性の観点で問題がある。さらに、集約化・コンパクト化といった、人口減少時代に目指すべき国土利用の方向性に過疎法の理念が適合しているかどうかも疑問である。

以上のように、過疎法の社会的な意義は、もはやほとんど失われていると言え、過疎法は廃止、もしくは根本から見直すべき段階に来ていると言わざるを得ない。人口減少市町村に対しては、すでに存在する交付税の補填措置をより一般的な枠組みとして拡張すればよい。条件不利地域への支援のあり方に関しては、教育のデジタル環境整備や子育て世帯への経済的支援など、より直接的に住民を支援するものに支援内容をシフトすることが望まれる。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ