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JRIレビュー Vol.5,No.108

認知症高齢者の日常的金銭管理をめぐる課題 -電子マネーの活用を解決の一助に-

2023年05月24日 岡元真希子


認知症あるいは加齢による認知機能の低下により、預貯金の出し入れや請求書の支払いなど日常的金銭管理が難しい在宅高齢者は300万人、このうち8%にあたる約30万人は子がおらず、親族による金銭管理支援には期待できないと考えられる。

金銭管理支援に関連する既存の公的制度として、成年後見制度と日常生活自立支援事業がある。成年後見制度は後見人等への報酬が高額であることや亡くなるまで支援が続くことから利用のハードルが高い。社会福祉協議会が提供する日常生活自立支援事業は利用料が安価で契約終了も可能だが、人員体制の制約があり待機者が生じている。民間サービスとして、事務委任契約を締結して提供される金銭管理支援もあるが、利用料の高さ、預託金・前払金の保全、委任事項の遂行の有無についてのチェックなどに課題がある。

利用しやすい制度設計となっている日常生活自立支援事業に着目すると、三つの問題点が挙げられる。第1は、人員不足による待機者の発生である。地域差はあるものの、6割以上の都道府県で平均53人の待機者が生じている。年間の新規契約者数は約1万人であり、初回相談件数の3割、相談・問い合わせ全体の0.5%にとどまる。第2は、煩雑な業務である。生活支援員と呼ばれる社会福祉協議会の非常勤職員が利用者宅を月1~2回訪問し、支払いが必要な請求書の有無を確認し、金融機関で現金を引き出して日常生活費を本人に手渡すという方法が一般的であるが、その動線ならびに事務手続きは煩雑である。第3は、現金取り扱いに伴うリスクであり、着服・流用、紛失や帳簿の不整合が問題となっている。

人員増強に限界があるなか、より使いやすい日常的金銭管理支援を構築するためには、キャッシュレス化が効果的である。クレジットカードや電子マネーに慣れた世代が高齢期を迎える2030年代に向けて、新たな金銭管理の仕組みを構築すべきである。具体的には、生活支援員が訪問して現金を渡す代わりに、電子マネーをチャージすることで、2カ月に1度支給される年金収入を計画的に使うことを支援する。そのメリットとして、現在よりも高い頻度で少額ずつ渡すことができるほか、いつどこで使ったかの記録が残るため、生活の質を高めるためのお金の使い方を考える、といったことも行いやすくなる。

キャッシュレス化に際し、二つの障壁・課題が予想される。第1は、すでに日常生活自立支援事業を利用している人や、手順に慣れた支援者がやり方を変える際に抱く負担や抵抗感である。しかし新しい利用者、待機者、制度の対象外の人に、キャッシュレス方式の簡易的な金銭管理サービスを提案することにより徐々に導入を拡大することは可能である。第2は、現金を利用する場面や高齢者は残るという点である。しかしそのことが、すべての人やケースで現金対応とする理由にはならない。アメリカ・イギリス・日本では認知症高齢者や知的障害者を対象とした電子マネーとスマホアプリを組み合わせたサービスが始まっている。キャッシュレス化することでサポートする側の事務負担とリスクを軽減し、貴重な人的資源は、何にお金をかけてどういう生活を実現したいかに関する相談援助などに充てるべきである。

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