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JRIレビュー Vol.5,No.108

カーボン・プライシングの活用に向けた課題 -炭素価格引き上げの国内環境整備と国際協調を-

2023年05月24日 蜂屋勝弘


2023年2月、「GX実現に向けた基本方針」(「GX基本方針」)が閣議決定され、わが国の産業構造等のグリーン・トランスフォーメーションの一環として、温室効果ガスの排出コストを排出者が負担するカーボン・プライシングの活用が打ち出された。カーボン・プライシングを活用することで、政府による一律の排出量規制で生じる経済活動や資源配分への悪影響を最小限にとどめつつ、企業や消費者が脱炭素に向けた取り組みを強化することが期待される。

「GX基本方針」では、カーボン・プライシングの具体策として「炭素に対する賦課金」および排出権取引の導入と、それに伴う政府収入を新たに導入される「GX経済移行債」の償還に使う方針が示されたものの、わが国の将来の炭素価格の水準は明らかでない。そこで、将来の炭素価格を一定の前提を置いて試算すると、既存のエネルギー課税等を勘案しても平均で6,750円/tCO2程度とみられる。これは、カーボン・ニュートラルが実現される炭素価格の水準として国際エネルギー機関(IEA)が想定している水準を大きく下回っており、わが国としては、炭素価格の一段の引き上げが求められる。

もっとも、特定の国だけが諸外国に比べて高い炭素価格を設定すると、安価な他国製品に市場を奪われたり、企業の生産拠点が海外に移転する恐れがあり、それに伴って、温室効果ガスの排出量も海外に移転することで、結局のところ、本来の目的である地球規模でのカーボン・ニュートラルの実現に繋がらないという、いわゆる「カーボン・リーケージ」が懸念される。

諸外国の炭素価格の水準をみると、ヨーロッパ諸国の水準がわが国を大きく上回るものの、わが国の主要な貿易相手国であるアメリカや中国、アジア各国の炭素価格は、わが国よりも低いため、今後、わが国が炭素価格を引き上げる際には、カーボン・リーケージのリスクに注意が必要となる。これに関し、炭素価格の水準が高いヨーロッパでは、炭素価格負担の段階的引き上げとカーボン・リーケージ回避の両立が図られ、2023年からは、炭素価格の低い国からの輸入品に水際で炭素価格を課す「炭素国境調整措置(CBAM)」が新たに導入される予定である。

わが国の製造業と農林水産業に、ヨーロッパで用いられているカーボン・リーケージのリスクを判定する基準を当てはめると、繊維、化学、石油製品・石炭製品、窯業・土石製品、鉄鋼、非鉄金属で同リスクが判定される基準に該当する。わが国でも炭素価格の引き上げとカーボン・リーケージのリスクの低減をいかに両立させていくかが課題となる。

まずは、炭素価格を引き上げやすくする環境整備が不可欠で、①炭素価格の製品価格への転嫁の促進、②それに伴う生計費上昇対策としての低所得家計への支援が求められる。そのためには、カーボン・プライシングによる政府収入を一般財源化し、使途の柔軟性を確保する必要がある。併せて、カーボン・リーケージ回避に向けては、わが国がまず炭素価格引き上げの範を示したうえで、各国が歩調を合わせて引き上げるよう、炭素価格の下限設定などを国際社会に働きかけることが重要である。

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