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エネルギーセクターとの連携による地域への持続的なモビリティサービスの導入

2023年05月23日 福永健二


 昨今、さまざまな地域でシェアリング利用できるパーソナルモビリティの充実が進んでいる。シェアサイクルは当たり前という観があり、首都圏をはじめとする地域では、キックボード等のマイクロモビリティが提供される事例も出現してきている。その他、前回のオピニオン「ミニカーEVの新たな活用可能性について」で述べたように、地域内での広範な活用が見込める小型EVもシェアリングサービスとして提供され始めている。

 これらのモビリティは、利用者のしたい距離に応じて選択されると想定される。例えば、2㎞までの移動ではキックボードが、5km程度までは自転車が、10km程度までは小型EVが、それ以上であれば従来型のカーシェアが選好されると考えられる。ただ、こうした利用者の需要を満たすためには、思いたった時に気軽に使えるよう、適切にアクセスポイントが地域内に配置されている必要がある。

 鉄道・バス等の公共交通機関に加え、こうしたパーソナルモビリティの台頭によるモビリティの多様化の流れを鑑み、今こそ地域内に必要なモビリティサービスについて、制度や枠組みを再整理すべきでないか。そのためには、まず、地域内の生活者の移動需要を正確に捉える必要があるだろう。既に発生している移動を把握するのはもちろん、移動したいが適する交通手段を得られずに移動できていない/億劫になっているという潜在的な移動需要についても何らか定量的に把握しておくことが有効ではないかと考える。

 弊社では、携帯端末等から取得される移動データに加え、電力利用データを活用することで、顕在化した移動だけでなく、こうした潜在的な移動需要を把握できるのではないかと着想し、検討を進めている。必ずしも従来は注目されてこなかったが、電力の利用データは生活者の活動を映すものである。例えば、ある区域において電力利用量がある程度大きく、日中~夜間で利用量に変化が起きていない状態が続いていれば、そこには「移動を行っていない人がいる」と推測できる。即ち潜在的な移動需要が隠れているのではないか、と考えることができるのである。ここに国勢調査等の人口・高齢者分布等のデータを組み合わせることにより、既存のパーソントリップ調査等より、容易に、しかしより正確に、地域内移動の実態認識が可能となるのではないかと想定する。

 潜在的なものまで含めて移動需要を捉えることができれば、それを満たすべく、各公共交通機関・パーソナルモビリティの特徴を踏まえ、それらの最適配置を構想することができよう。考慮すべき特徴としては、モビリティごとに適する移動距離や想定利用者の乗車人数・年齢層、などが挙げられるであろう。

 個々のサービスに目を移すと、公共交通機関はもちろん、現状、カーシェア等事業者にも公的資金が注入され、サービス維持が図られている。地域にとって最適なモビリティの姿が描けると、自治体としてその補助金をどう分配するか、という妥当性判断の指標としても活用することができるであろう。他方で、補助金等に頼るばかりではなく、サービス毎に収益性向上をもたらす施策が必要である。小型EVシェアリングであれば、その機能性・汎用性から住民や地域事業者等により共同で運用し、車両の稼働率を上げるサービスモデルが考えられる。他には、バスやカーシェア用車両を電動化、その蓄電池を電力調整に活用し収益を獲得することも可能である。弊社ではこうした個々のサービスの持続性を高めるモデルの整理も進める。

 以上のように、エネルギーセクターとの連携により、地域にとって最適な配置、かつ持続的な形でモビリティサービスを導入できる可能性は大きい。弊社では、エネルギー・モビリティ双方の知見を活かし、ハード・システム・運営モデルを一括に導入できるような検討フロー・計算モデル構築を進めている。

 上述の運営モデルでは、車両の再配置・メンテナンスや電力調整への協力等、サービス維持には地域内ステークホルダーの協力が必要となる。さらに今後、エネルギー・モビリティといった社会基盤の維持には、事業者だけでなく、住民を含めたあらゆるステークホルダーが自らのため、そして地域のために貢献する姿勢が求められるだろう。弊社では、社会基盤の効率化・最適化を支援するに留まらず、こうした自律協生社会を形づくる仕組みの構築を目指し、取り組んでいく所存である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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