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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.89

ASEAN諸国の金融包摂の進展をもたらす金融サービスの変化 ―オルタナティブ融資、オープンファイナンス、組み込み型金融―

2023年05月12日 清水聡


フィンテックに基づく金融サービス(デジタル化された決済や融資など)は、伝統的な金融機関が提供出来ていない部分を埋める役割を果たしてきている。それは、銀行口座を保有しない層(unbanked)、保有しているが多様な銀行サービスを受けられていない層(underbanked)などの人々や、銀行と取引が出来ていない中小零細企業などである。ASEAN諸国においては、金融包摂の観点からフィンテックの促進政策が採用されており、コストが低く、利便性・安全性が高い金融サービスの提供が拡大している。ASEANにおいても、金融包摂を包摂的な経済成長に貢献するものと位置付け、これを進めるために積極的な取り組みを行っている。

ASEAN諸国では、中小企業金融の促進策が実施されているにもかかわらず、その資金調達の状況はあまり変化していない。中小企業の多くが資金調達の困難を経験するなど、従来型の金融システムによる中小企業向け融資は不足している。中小企業の多くが、オルタナティブ融資(本稿では、デジタル融資をオルタナティブ融資と表現する)やクラウドファンディングなどの利用を考えている。

世界のオルタナティブ融資実行額(中国は除く)は、着実に増加している。ASEAN諸国のオルタナティブ融資の顧客を金融包摂の程度によって分類すると、銀行口座を保有し取引を活発に行っている層(banked)の割合は41%にとどまることから、オルタナティブ融資の存在が金融包摂の進展に役立っていると考えられる。ASEAN諸国で特にオルタナティブ融資の規模が大きいのは、インドネシアとシンガポールである。2カ国では関連の規制が整備され、取引が拡大しており、銀行融資を得にくい中小企業に融資が行われるようになっている。

銀行などの金融機関においても、金融のデジタル化の進展を受け、API(Application Programming Interface)を活用して顧客データを他の金融機関などに開放するオープンファイナンスの動きが進んでいる。この動きを受け、非金融企業が金融サービスを提供する組み込み型金融も拡大している。これらの変化により、消費者や企業がより利便性の高いサービスを受けられるようになり、金融包摂が一段と進むことが期待される。また、銀行とフィンテック企業の健全な競争によって金融サービスが向上することが期待される一方、銀行には環境変化に対応してビジネスモデルを変革する能力が求められることになる。さらに、デジタル化の進展に伴って金融サービスのあり方や担い手が変化するなか、金融システムの健全性の維持も課題となろう。

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