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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.89

上昇する中国の潜在不良債権比率 ―企業の財務データからみた不良債権問題の現状と展望―

2023年05月12日 関辰一


中国では、政府が不動産市場の過熱抑制策を講じたことで、不動産開発企業の資金繰りが悪化し、社債のデフォルトが相次いだ。不動産不況は、鉄鋼や建設機械などを中心に鉱工業分野の生産や企業業績にマイナスの影響を与えた。一方、政府が公表する銀行の不良債権比率は2%以下の低水準のままである。不良債権ではないものの、返済に不安が残る関注類(要注意先)比率も3%以下と低位を維持している。

不良債権比率が低水準を保つことが出来た理由として、不良債権が金融資産管理会社(AMC)へ移転されたことがある。加えて、金融機関による融資が拡大し続けたことも要因の一つである。さらに、融資の返済猶予といった政府による金融面の支援も延滞債権の増加を抑制した。

もっとも、政府が公表する低い不良債権比率をもって、企業の財務体質が健全で、金融危機発生の可能性も低いことを意味しない。不良債権に転換しかねない企業の債務を「潜在不良債権」とし、上場企業の財務データを用いて潜在不良債権比率を推計すると、2020年と2021年に大きく上昇し、2022年央時点で9.6%に達する。業種別にみると、不動産業が22.9%へ大幅に上昇した。運輸・倉庫や飲食・宿泊業も、「ゼロコロナ政策」の影響を受けてそれぞれ31.1%、18.9%へ上昇した。

一般に、潜在不良債権比率の大幅な上昇は、金融危機到来の前触れと位置付けることが出来る。とはいえ、政府が、金融機関に対して公的資金を迅速に投入したこと、企業の資金繰りを支援するため金融機関に融資返済猶予を要請したことで、中国で近い将来に金融危機が発生する蓋然性は低いと考えられる。

「ウィズコロナ」路線に移行したことで、中国では様々な経済指標が上向き始めた。政府の不動産支援策により、開発企業の資金繰りは改善しつつある。住宅建設工事がストップすることに対する不安が和らいだことで、住宅需要にも回復の兆しがみられる。

しかしながら、足元の不動産市場の好転は、今後の本格的回復を意味しない。出生率の低下による人口減少といった構造的問題による住宅需要の縮小は避けられない。中国での金融危機リスクをみるうえでは、不良債権比率や関注類比率ではなく、潜在不良債権比率をモニタリングしていくことが重要と考えられる。

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