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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.89

現実路線にシフトした中国の一帯一路 ―巨大経済圏構想から持続可能な対外経済協力策へー

2023年05月12日 佐野淳也


習近平国家主席が2013年に提唱した一帯一路は当初、欧州まで陸路で結ぶとともに、経済協力の見返りとして、沿線国の石油や天然ガスを確保するという地政学的な要因に基づく西進策であり、中国の封じ込めを目指すアメリカとの全面対決を避けながら、影響力の拡大を図ろうとするものでもあった。

一帯一路はやがて、対象地域内に複数の経済回廊を構築し、インフラの整備およびその接続を推進するものへと変化した。さらに、米中関係の悪化を背景に、習近平政権は一帯一路の対象をユーラシア大陸から全世界へと拡大するとともに、既存の国際秩序の見直しを求めるなど、一帯一路を抗米色の強いものに転換した。これを受け、メディアでは一帯一路を「巨大経済圏構想」と形容するようになったが、その形容が妥当であるか否かについては、9年間の成果と課題、そして、中国を取り巻く環境の変化を改めて整理する必要がある。

一帯一路の9年間の成果として、①国連での中国支持票の獲得など国際社会における地位向上、②AIIBの発足による国際開発金融分野でのプレゼンスの拡大、③貿易の拡大、工事の受注、原油の安定調達の実現といった経済的な恩恵、の三つが挙げられる。

一方、世界銀行などの統計データによると、中国の対外融資・援助は2010年代後半以降頭打ちとなっている。財政部が対外融資の拡大抑制に舵を切るなど、政策転換がその背景にある。一帯一路の目玉案件である経済回廊建設の停滞、被支援国側の期待の低下も、対外融資の減少につながった。対外融資・援助の減速により、中国の国際的な影響力の拡大に対する一帯一路の寄与は低下する可能性が高い。

習近平政権は、政権の求心力を高める手段としても一帯一路を重視してきたが、成長鈍化による国民の内向き志向の高まりを受け、2022年の共産党大会でその政治的な位置付けを見直した。

習近平国家主席は、対外経済協力において、小規模案件の着実な実施、投入コストとリターンのバランス重視を指示した。指示は、従来に比べて現実的な内容で、抗米色も薄れている。これにより、一帯一路はメディアが評した巨大経済圏構想ではなく、対外経済協力策の一つとなったといえる。

国民の内向き志向が一段と強まること、中国に対する被支援国の警戒感が高まっていることから、今後の中国の対外融資・援助はピーク時まで戻らず、現行水準で推移すると見込まれる。国際社会における中国のプレゼンスの源泉は資金力であり、支援の規模が増えなければ、影響力の低下は避けられない。プレゼンスの低下を最小限に抑えるべく、習近平政権は、TPP11への加盟、非経済分野での協力拡大など、様々な取り組みを模索するとみられる。

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