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JRIレビュー Vol.4,No.107

コスト・プッシュ型労働移動と雇用・賃金・生産性 -小泉内閣における建設業雇用の縮小期を参考に-

2023年04月19日 安井洋輔


わが国では、少子高齢化・人口減少やデジタル化の加速に伴い産業構造が変化している。こうした変化に合わせて、労働者が衰退産業から成長産業に円滑にシフトすることが、個々人の経済厚生およびわが国の経済成長率を引き上げるうえで重要である。

もっとも、わが国において、衰退産業の労働者はどの産業に移る傾向があるのか、また、そうした労働者を受け入れた産業における生産性や賃金はどのような影響を受けるのかについてはあまり知られていない。本稿では、わが国における衰退産業からの労働移動(コスト・プッシュ型労働移動)について、公共事業費の圧縮によって建設業雇用が減少した2000年代前半から中盤にかけての時期を対象に中小企業の個票データを用いて分析した。

この結果、わが国では、建設業から押し出された労働者は小売業、卸売業、製造業にシフトしたほか、一部の労働力が建設業に滞留したことが分かった。この間、産業別に生産性をみると、小売業、卸売業、建設業は大きく低迷しており、また、建設業からの労働者の受け入れがこうした産業の生産性を高めることもなかった。とりわけ小売業においては、労働供給の増加によって賃金が下押しされたことも確認された。以上のことから、わが国におけるコスト・プッシュ型労働移動は、必ずしも低生産性の産業から高生産性の産業への労働資源の最適配置が実現できないほか、労働者を受け入れた産業の生産性も改善されないことが確認された。

分析対象とした2000年代の前半から中盤にかけては、情報通信業で生産性が高まり求人も増えていたにもかかわらず、建設業と情報通信業で求められるスキル・セットが大きく異なっていたことを主因に、情報通信業への労働移動はほとんどみられなかった。これらの分析結果を前提とすると、現在でも、衰退産業から押し出された労働者が衰退産業にとどまったり、低生産性産業にシフトしている可能性がある。

以上を踏まえると、衰退産業から押し出された労働者が円滑に成長産業に吸収されるようになるには、成長産業で求められるスキルを労働者が容易に身に付けられるようにすることが求められる。政策としては、①成長産業が求めるスキルを習得できるリカレント教育の強化、②成長産業やそこで必要なスキルに関して労働者に助言できるキャリアコンサルタントの充実、③衰退産業から押し出される労働者の雇用の受け皿になる成長産業の創出・育成が重要である。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
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