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アジア・マンスリー 2023年4月号

高金利の長期化が懸念される韓国経済

2023年03月28日 立石宗一郎


韓国では、前政権による労働組合への支援が賃金上昇につながっており、インフレが長期化する懸念がある。インフレの長期化で高金利が続く場合、家計負担の増大を通じて、景気を下押しする恐れがある。

■急速な利上げが続いた韓国
韓国銀行(中央銀行)は、過去1年半にわたり利上げを続けてきた。本年2月末には政策金利と長期金利はそれぞれ2019年末の水準から約2%上昇し、アジア主要国のなかでは上昇幅が最も大きい国となった。

急ピッチな利上げの背景には、①資源高、②通貨安、③住宅価格高騰を背景としたインフレ率の急加速が挙げられる。世界的な資源高の影響により、電気・ガスやガソリンなどのエネルギー価格が上昇した。原油などの資源を輸入に依存する韓国では、輸入品目のなかで鉱物性燃料が最も高い割合を占めているため、資源高は輸入総額を大幅に増加させた。これにより2022年3月以降、貿易収支の赤字が定着したことから、韓国ウォンの対ドルレートは大きく下落し、幅広い輸入品の価格を押し上げた。この間、住宅価格は2022年4月まで前年同月比+10%超の高い伸びが続き、賃料の押し上げ要因となった。

もっとも、上記三つのインフレ圧力は徐々に低下しており、消費者物価指数は2022年7月の前年同月比+6.3%をピークに鈍化傾向にある。世界景気が減速するとともに資源価格の騰勢は弱まりつつあるほか、米国の利上げペースも鈍化しており、韓国ウォンに対する下落圧力は低下している。加えて、利上げを受けた住宅ローン金利の上昇で住宅需要は冷え込み、住宅価格も昨年7月をピークに下落に転じている。

先行きのインフレに対する懸念が低下したことを受けて、韓国銀行は本年2月の会合で政策金利を3.5%と、8会合ぶりに据え置いた。市場関係者の間では、今後も政策金利は据え置かれるとの見方が強まっている。

■賃金上昇により高インフレ長期化の懸念
ただし、韓国のインフレが沈静化に向かうかどうか不透明感が強い。エネルギー価格の落ち着きを背景にインフレ率は低下しているものの、食料やエネルギーを除いたコアインフレ率は+4%前後で高止まりしている。コアインフレ率が高い背景には、賃金の上昇が挙げられる。

韓国の尹政権は賃金設定を年功序列から業績主義への移行を呼び掛けるなど労働市場改革を進め、文前政権による極端な労働者寄りの政策を転換している。最低賃金は2023年に前年比+5.0%と前年(同+5.1%)と同程度の伸びに抑制された。しかし、前政権による労働組合への支援策の影響で、組合の交渉力が強まっており、賃金全体を押し上げている。労働者1人当たりの平均月給は、最低賃金引き上げの影響が小さい2021年と2022年でもそれぞれ同+4.6%、同+4.9%と続伸している。

前政権は、①非公認であった公務員の労働組合を承認、②失業者や解雇者の労働組合加入を認める改正労働組合法の施行などの政策を実施した。これを受け、労働組合の組織率は2010年代後半から上昇しており、現在では日本やドイツなどの先進国と遜色ない水準に達している。トラック運転手による全国規模のストライキが昨年2度も発生するなど、大規模なストライキが頻発している。労働組合組織率の高まりとともに、労使交渉の激しさは増しており、組合による賃上げ要求の力も高まっているとみられる。

労働組合の賃上げ要求は、高インフレで家計が苦しくなっていることを背景としているが、生産性の上昇を伴わない大幅賃上げは一段のインフレにつながる恐れがある。このような賃金・物価のスパイラル的な上昇が生じると、インフレの沈静化は容易ではなくなる。

■高金利が長期化する懸念
賃金上昇により高インフレが長引けば、政策金利の引き上げが再開される可能性がある。韓国銀行の李昌鏞総裁は、「政策金利引き下げのタイミングは、消費者物価上昇率が2%台へ低下する目途が立ったときに議論することが望ましい」との見解を示している。韓国銀行は、年末まで3%台のインフレが続くと予測しており、年内に利下げが実施される可能性は低い。米国でも利上げが継続される可能性がくすぶっていることもあり、韓国の高金利は来年以降も継続する懸念が浮上している。

これまでの急速な金利上昇で、住宅市場は大きな影響を受けている。1月の住宅取引件数は前年同月比▲42.8%と大幅に減少した。2月の住宅価格も同▲4.4%と低下しており、1999年8月以来となる23年ぶりの大幅な下落率となった。韓国の家計債務は2021年にGDP比99%と、OECD平均(63.7%)と比べても高い水準にある。その約6割を占める住宅ローンは、変動金利型が7割強を占めており、これまでの金利上昇に伴い家計の利払い負担は増大し、個人消費を押し下げる要因となっている。高金利が長期化すると、利払い負担が一段と増大することに加えて、住宅価格が大きく押し下げ、保有資産価値の下落で消費が手控えられる逆資産効果が生じる可能性もある。高金利の長期化が、韓国景気を大きく悪化させる可能性には注意が必要である。

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