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アジア・マンスリー 2023年4月号

中国の少子化対策は機能するか

2023年03月28日 三浦有史


習近平政権は「一人っ子政策」を廃止するなど、少子化対策に注力している。多子世帯に補助金を給付する都市も増えている。こうした政策はどの程度成果をあげているのか。中国の少子化は止まるのか。

■合計特殊出生率は日本を下回る水準に
中国の少子化が急ピッチで進んでいる。1,000人当たりの人口の増減を表す自然増加率は、2022年に▲0.06‰(パーミル)と、大躍進政策の失敗により多くの餓死者が出た1960年以来のマイナスとなった。自然増加率とは死亡率と出生率の差で、出生率が死亡率を下回るとマイナスとなり、人口が減少する。中国の自然増加率は2017年からの低下が顕著で、ここ数年で一気に人口減少社会に突き進んだ様子がうかがえる。

1人の女性が一生の間(15~49歳)に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も低下が続いている。2021年の合計特殊出生率は1.15と、2010年の1.64から大幅に低下し、日本の1.37をも下回る。近年の合計特殊出生率の低下はコロナ禍が影響しているものの、国連は2022年7月に公表した「世界人口見通し2022年版」において、中国の合計特殊出生率は2050年まで1.4を下回る状態が続くとみている。

■産児制限緩和の効果
習近平政権は想定を上回る少子化に危機感を強め、2015年末に「一人っ子政策」の廃止により子どもを2人持つことを 、そして、2021年7月には3人まで認める政策を打ち出した。一連の産児制限の緩和はどの程度の効果をあげているのであろうか。

出生順序別の出生数については、政府が確定値を発表していないものの、推計によれば2016年の第2子の出生数は前年比33.0%増の1,015万人と、第1子より多いことから、2015年末の一人っ子政策の廃止は一定の成果をあげたと言えそうである。

しかし、その効果は長続きしなかった。2017年以降、第2子の出生数は減少し、出生数に占める割合も低下している。2013~21年に出産適齢女性人口が大幅に減少した事実はないため、一人っ子政策の廃止の効果が消失したのは明らかである。2017年以降の第2子の出生数の減少幅は第1子より大きく、出生率低下の原因の一つになったとみなすことができる。

■補助金給付による出産奨励へ
中国の少子化対策は産児制限の緩和から、出産を奨励する政策へと重点を移し始めている。共産党と国務院(政府)は、2021年7月、3人の子どもを持つことを容認した「出産政策の最適化と長期的にバランスの取れた人口開発の促進に関する決定」(以下、「決定」とする)において、高質量の経済発展を支える人的資本と内需を維持するために出産政策の見直しが必要としたうえで、国民の多様なニーズに応え、結婚、出産、育児、教育にかかわる問題を解決するとした。

「決定」は、2022年7月、国家衛生健康委員会や国家発展改革委員会などが共同で公布した「積極的な出産支援策のさらなる改善と実施に関する指導的意見」(以下、「意見」とする)によって補強された。「意見」は「決定」と重複する部分が多いものの、結婚、出産、育児、教育を総合的に捉え、財政、税制、保険、教育、住宅などにおいて積極的な支援策をとるとした。

「意見」では、子どもを持つ家庭への補助金給付というこれまでにない政策が示されたため、新たな変化が起きると期待されている。四川省攀枝花市では、2021年に多子世帯に3歳までの子ども1人につき月500元の保育補助金を給付した結果、出生数は前年比1.62%増加し、第2子は同5.6% 、第3子は同168.4% 増加したと公表されている。同市は2021年に合計95万元の補助金を給付したが、2022年にはこれを約10倍の1,000万元に拡大した。

多子世帯の住宅購入に対する補助金の給付に踏み切る都市も現れるようになった。浙江省嘉興市は、2 人の子どもがいる世帯が新築住宅を購入する場合、1 平方メートル当たり 300 元 (上限5万元) を、3 人の子どもがいる世帯には1平方メートル当たり500元(上限10万元)の補助金を給付するとした。これは少子化を止めるだけでなく、低迷する住宅市場の底上げにも寄与する一石二鳥の政策と考えられている。

■補助金給付の効果は期待薄
しかし、こうした補助金給付は出産意欲を刺激するほどのインパクトを持たず、少子化を止める決定打にはならないとみられる。

保育補助金は、金額や給付期間が限定的で、出産を促すには不十分と捉えられている。四川省攀枝花市の保育補助金は年間で6,000元となり、同市の2021年の可処分所得4万7,915元の12.5%に相当し、決して少ないとはいえない。しかし、大学卒業までにかかるといわれる教育費62.7万元をどのように工面するか、という家庭の不安を緩和させるものではない。

住宅購入に対する補助金もやはり十分とはいえない。浙江省嘉興市の補助金は最大10万元と、やはり決して少額ではないものの、住宅面積を100平方メートルとして同市の2021年の住宅の平均価格を求めると132万元である。10万元は住宅ローンの返済負担をわずかに軽くするにすぎず、多子化の呼び水になるインパクトがあるとは考えにくい。 

上海市の2022年の合計特殊出生率は0.7と、東京の1.12(2021年)を大幅に下回る。ゼロコロナ政策が転換されたものの、都市化や高学歴化が進む一方で、住宅費や教育費の家計負担が増えることから、中国の少子化は今後一段と加速すると見込まれる。


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