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小学生が考える2050年 ~武蔵野市立大野田小学校での未来洞察ワークショップの紹介~

2023年03月20日 木下友子


◆小学生向け未来洞察ワークショップ概要
 2023年1月、未来デザイン・ラボでは、世界未来学連盟日本支部(World Future Studies Federation; WFSF)(※1)への協力という形で、小学生向け未来洞察ワークショップを開催した。未来デザイン・ラボとしては初となる小学校でのプログラム提供であったが、大変興味深く、希望を感じる結果となった。今回は、このワークショップの様子や子どもたちの反応を紹介しつつ、子どもたちが未来洞察活動を行うことの意義を考えてみたい。
 ワークショップは1月下旬に、東京都武蔵野市立大野田小学校(以下、大野田小)の協力を得て実施した。大野田小の教室には壁やドアがなく、教室と教室は廊下でつながっている。そのユニークな校舎からもわかるとおり、オープンで自由な雰囲気が印象的な学校である。今回、卒業を間近に控えた六年生を対象に、4クラスを2クラスずつに分けてワークショップを実施した。六年生は今年度、「総合的な学習(探究)の時間」(※2)において、「働くとはどういうことか?」をテーマに学習を進めている。この授業の一環として、今回、未来洞察活動を通じた「未来(2050年)の仕事」を考えるワークショップを行った。
 冒頭で講師から「未来は変えられると思うか」と児童に質問したところ、「変えられる」に手を挙げた児童が6割程度、「たぶん変えられる」が3割程度、「変えられなさそう……」と「絶対無理!」が各数名(合わせて1割程度)という結果だった。未来に対してプロアクティブな姿勢を持った子どもたちが多いことに正直安心した。その後、「今ない仕事・これから新しく生まれる仕事」をテーマにグループワークを実施した。具体的には、2050年に生まれているであろう、今は存在しない仕事について、5~6名のグループに分かれて議論し、クラスの前で発表を行った。

◆児童たちの豊かな発想力と表現力
 20分程度の議論や準備時間を経て、各グループ2~3分で発表を行った。今回は、①どのような職業が2050年に生まれているか、②その理由として、2050年には●●が流行しており、その結果、③△△のような社会になっている、の三項目について、考えてもらった。発表の仕方は指定せず、自由に表現してもらうこととした。
 発表を聞いて驚いたことは、児童たちの発想力と論理的思考、そして表現力である。今回、講師が事例として宇宙を提示したという背景もあってか、宇宙に関連するアイディアも多かったが、「宇宙では~~な社会ができあがっているから、そこではこういうニーズがあるはずだ。だから□□な職業が生まれているのではないか。」というように、宇宙の社会における具体的なニーズを、ストーリーをもって想像し、そのニーズを満たす職業を広い視点で考えていた。また、完全に妄想の世界というわけでもなく、例えば、「最近では社会が動物を大切にするようになってきているから、2050年には動物をペットとして飼うことは禁止されているのではないか。そのため、現代にあるペットショップはつぶれて、代わりに、「ロボットショップ」ができており、ロボットショップ店員という新たな職業が生まれているのではないか。」といったように、現代の社会の状況を踏まえて、未来の社会を想像しているグループも複数存在した。加えて、発表方法も創意工夫に富んでおり、模造紙を使って発表するグループ、寸劇で具体的な場面を表現するグループ、プレゼンテーション資料でまとめるグループなど、グループによってさまざまであった。今回は授業の時間が限定的だったこともあり、発表のための準備時間も短かったが、今後の授業ではもう少し準備時間を確保することができれば、より多彩な未来の表現がなされうるのではないか。

◆子どもたちが未来洞察活動に取り組む意義
 今回、未来デザイン・ラボとして初めて小学校での未来洞察ワークショップを実施してみて、子どもだからこその、未来洞察活動の意義があると感じた。少子高齢化による日本経済の縮小や各種格差の拡大、コロナ禍による日常の変化など、子どもたちは意識的・無意識的に社会の問題や課題に目を向けることが多いだろう。自身の将来について考えるに際しても、目の前にある中学・高校・大学受験、さらには就職活動など、現実的に乗り越えなければならないハードルに気をとられることも多いのではないか。そうした中で、あえて意識を遠い未来に「飛ばし」、楽しんで自分の生きる未来を想像する活動は、子どもたちの視野を広げ、自身を主体として今後の未来を考えることに資するのではないか。また、クラスメートと自由に議論して発想を膨らませたり、発想したことを表現したりする活動も、これからの社会を生きていく上で大切な力を育むことにつながるだろう。どちらかというと解決しなければならない社会課題の増加や生き辛さが強調されがちな現代において、子どもたちの豊かな発想力と柔らかな感性を生かし、自身の人生に対して能動的に向き合う「生きる力」を育むための活動として、今後も未来洞察活動を通じて貢献していきたい。



(※1) WFSFは、60カ国以上に及ぶメンバーから構成される国際NGO。学者や研究者、実践者、学生、未来に特化した研究機関などが参加している。日本支部は2019年に設立された。WFSFウェブサイト
(※2) 変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標とする科目。(出所:文部科学省ウェブサイト「総合的な学習(探究)の時間」)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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