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氾濫する「X」、その目指す先は何か

2023年03月14日 新美陽大


 2023年2月、「GX基本戦略」が閣議決定された。GXは「グリーントランスフォーメーション」の略語であり、脱炭素社会・カーボンニュートラルを実現するために、あらゆる社会の在り方を変えていく意味とされている。GXと同じく、「X」をトランスフォーメーションの略字とする言葉が、DX(デジタルトランスフォーメーション)を筆頭にさまざまな場面で見聞きされるようになった。まさに「X」氾濫の様相である。

 「X」すなわち「トランスフォーメーション(transformation)」を辞書で引くと、「外観や様子を一変させる・すっかり変えること」という和訳が充てられている。地球温暖化およびそれに伴う気候変動には、私たち人間社会が排出する温室効果ガスの急増が関係しており、今後の気候変動による影響を最小化するためには、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとなるまで抑制する必要がある、という脱炭素社会あるいはカーボンニュートラルの必要性は広範に認知されてきた。他方で、私たちは、直接的・間接的の違いはあるものの、あらゆる場面において温室効果ガスを排出しているという事実がある。その量は年間1人あたり、世界平均で約5トン、日本平均で約10トンに上る。人間社会を一気に近代化した産業革命を起点に、温室効果ガス排出量の増加が論じられるように、現代社会の生活を維持したまま、温室効果ガスの排出量を単なる抑制に留まらずゼロにするというのは、極めて困難なことが容易に想像できる。だからこそ、単なる線形的な変化ではなく非線形的な急変が必要である、との想いが「X」に込められたのであろう。
 ただ、私たちの日常に立ち返ってみると、GXに関連する目下の悩みはエネルギー価格の高騰だ。再生可能エネルギーの拡大に伴って増加している賦課金も、世帯当たり年間で1万円を優に超える金額となっている。GXは戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味するとされているが、私たちの生活にはどのような変化をもたらすのだろうか?筆者が見る限り、残念ながらその答えに言及されている論説はほとんど見られない。よもやトランスフォーメーション、あるいは脱炭素・カーボンニュートラルの実現が、日常と切り離され、単なる目的化してはいないだろうか?
 筆者は、GXが本来目的とすべきは、安定・安価なエネルギー供給体制の確立であり、それをベースとした国際競争力の維持・強化であると考える。トランスフォーメーションを経て構築されることになる、新たなエネルギー供給体制や新たな産業構造の姿こそが示されるべきだ。現状の「入口」とあるべき将来の「出口」が示されてこそ、トランスフォーメーションが必要な分野が明らかになる。トランスフォーメーションを目的化することなく、私たちの生活にどのような効果あるいは便益をもたらすかという視点を欠かさないという姿勢は、DXなど他の「X」についても全く同様に配慮されるべきものだ。不確実性が一層高まる今日において、将来像を明確に示すことは難度の高い挑戦であることには違いない。しかし、それを避けて、手段だけを目的化させたり総花的な施策の列挙だけを行うのではなく、目指す私たちの社会の姿と、それが実現したときの私たちの暮らしへの効果や便益を具体的に議論することが、強く求められているのではないだろうか。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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