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アジア・マンスリー 2023年3月号

調整が長引く中国の不動産市場

2023年03月01日 関辰一


不動産市場は中国経済にとって極めて重要である。今回の不動産市場の調整には、人口減少という構造要因も影響しており、政府の支援策によって不動産市場が再び活況を取り戻すとみるのは早計である。

■不動産販売は減少
中国では、新型コロナへのわずかな感染にも断固たる拡大防止策をとる「ゼロコロナ政策」の終了に伴い、観光などサービス消費が持ち直している。一方、不動産市場では住宅販売の減少や価格の下落が続いている。

2023年初から2月18日までの主要30都市の分譲住宅取引床面積は前年同期比▲6.3%と減少した。2022年の全国の分譲住宅販売床面積は前年比▲26.8%と統計開始後最大の減少となったが、こうした厳しい状況が本年入り後も続いている。1月の主要70都市の新築分譲住宅価格は、前年同月比▲1.5%と9カ月連続で下落した。

不動産市場の調整は中国経済を根底から揺るがしかねない問題となっている。GDPの11%に達する不動産開発投資は昨年、住宅販売の減少や政府による不動産向け融資規制により前年比▲10.0%と減少した。地方政府は、土地使用権譲渡収入の減少により財政がひっ迫した結果、傘下のインフラ投資企業に対する資金面での支援を停止せざるを得なくなった。その結果、不動産開発企業や地方政府傘下のインフラ投資企業から債権を回収することができるのか、金融面で不安が高まっている。

家計部門では、不動産価格の下落による逆資産効果が個人消費の下押し要因となる。中国人民銀行が2019年10月に全国都市部の3万世帯に対して行った調査によると、中国では不動産が家計資産の59.1%に達する。これは、日本の36.7%、米国の25.1%を大きく上回る。

ハーバード大のケネス・ロゴフ教授らは、2020年の論文“Peak China Housing”で、中国の最新の産業連関表を用いて、建設業などの関連部門を含めた不動産業の付加価値をGDPの29%と試算した。また、不動産業の経済活動が20%縮小すると、金融危機が起こらなかったとしても、GDPが5~10%下押しされると予想している。

■政府の支援策によって不動産市場が再び活況を取り戻すとみるのは早計
こうしたなか、政府は不動産市場に対し支援策を相次いで講じている。昨年末ごろ、中央政府は、不動産開発企業に対して銀行融資の拡大や債券・株式の発行を容認する資金調達支援策を打ち出した。銀行融資については、住宅建設工事の停止による混乱を鎮静化するために、開発企業向けに返済猶予と融資拡大を金融機関に要請した。本年入り後には、1軒目の住宅購入者向けに新たな優遇金利制度を導入したほか、優良開発企業に対する一段の融資拡大を求めた。地方政府も、住宅購入規制の緩和や購入支援を急いでいる。

もっとも、今回の住宅販売の減少には、2020年に打ち出された開発企業向けの融資規制といった政策要因だけでなく、人口減少という構造要因も影響しており、支援策によって不動産市場が再び活況を取り戻すとみるのは早計である。
1軒目の住宅需要のボリュームゾーンである25~34歳人口はすでに減少に転じ、昨年末から2030年までにさらに4,700万人減少すると見込まれている。

中国不動産協会等によると、住宅購入者の平均年齢が27歳であり、25~34歳の購入者が1 軒目住宅購入者全体の38.4%と最もシェアが高い。中国では、マイホームの保有が結婚相手を探すうえで有利となるため、親が子どもの結婚を支援するために住宅購入資金を出すことが多い。このため、1軒目の住宅購入者の平均年齢が27歳と低い。

政府は、かつて一人っ子政策に象徴される少子化政策で出生数をコントロールしてきたが、最近は出生率の低下に歯止めをかけることができない状況にある。国家統計局によると、出生数を総人口で割った出生率は2022年に0.677%と、建国以来の最低を更新した。この背景には、1980年ごろから続けた一人っ子政策の影響で、以前から「子は1人で十分」と考える家庭が多いことに加え、子育てにかかわる経済的負担が大きいこと、ゼロコロナ政策が出生数の減少に拍車をかけたことがある。

今後、人口減少が続くことを受けて、不動産市場は厳しい調整が長引くと見込まれる。このため、今回の資金調達支援策は、市場から退出するはずの不動産開発企業の延命を助けるだけに終わる可能性がある。新たな優遇金利制度の導入といった需要刺激策の効果も慎重にみる必要があろう。

中国の不動産市場は従来、熱しやすく冷めにくい市場であったが、今後は冷めやすく熱しにくい市場になると考えられる。
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