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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.88

ASEAN諸国の決済システム整備とフィンテック拡大の動向 ―中央銀行デジタル通貨の動きを含めて―

2023年02月13日 清水聡


ASEAN諸国では、2020年に減少したフィンテック企業に対する投資額が2021年には再び増加した。このことは、フィンテックの拡大が継続的なものであることを示している。取引種類別の規模ではデジタル決済が圧倒的に大きいが、急伸しているのは資産運用や暗号資産などである。また、デジタルバンクと取引しようとする消費者のマインドも比較的高い。経済のデジタル化の面ではeコマースの規模が圧倒的に大きく、eコマースとデジタル決済がデジタル経済・金融の発展をけん引している。

ASEAN6カ国(先発加盟5カ国とベトナム)では、金融当局の主導によりホールセール決済(銀行間決済、証券決済、為替決済など)とリテール決済(消費者・企業が行う決済)のデジタル化が進められてきた。各国でリテール決済が常時(休みがない)、即時(数分で完了する)に行えるようになってきている。近年は、QRコード決済が決済の効率化を後押ししている。また、相互運用性も向上しており、モバイルマネーなどのサービスを提供するフィンテック企業が銀行間決済に参加出来るようになりつつある。

決済システム整備は、クロスボーダー決済にも広がっている。域内の決済システムの統合を図るASEAN Payment Connectivity initiativeに基づき、各国のリテール即時決済システムの接続やQRコード決済の接続が図られている。また、コルレス銀行制度を利用した従来の海外送金は手数料が高く時間もかかるため、ホールセールCBDC(中央銀行デジタル通貨)を活用しようとする動きが世界的に進められており、ASEAN諸国ではシンガポール・マレーシア・タイがこれらの活動に参加している。

各国のフィンテックの動向をみると、決済関連企業が最大の投資を集める一方、暗号資産・資産運用・保険などにも資金が集まっている。その背景としては、金融包摂が十分に進んでいないこと、パンデミックが経済のデジタル化を促進していること、ミレニアル世代やZ世代による取引が活発化したことなどがある。消費者のフィンテックの利用は、各分野で急増している。デジタル決済の拡大によりeウォレット(e-wallet)の存在感が増しているが、現金やクレジットカードの利用も根強く、デジタル決済の進展ぶりは国により多様である。デジタル化の進展により金融包摂の進展が期待される一方、消費者の金融リテラシーやデジタルリテラシーの欠如が大きな課題となっている。

中央銀行がCBDCの発行やクロスボーダー決済への活用を検討する動きが世界的に拡大しており、ASEAN諸国も例外ではない。すぐにCBDCの発行が必要という状況ではないが、準備は不可欠である。発行が貨幣的・金融的安定性に及ぼす影響は未知数であり、クロスボーダーでは資本フローの不安定化や通貨代替などにつながりかねないといった懸念も指摘されているため、継続的に研究を深めることが求められる。


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