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JRIレビュー Vol.2,No.105

訪問介護事業所の現状と課題 -鍵となる事業所規模の拡大に向けて-

2023年01月23日 岡元真希子


自宅で最期を迎える高齢者は2040年には現在の2倍の約35万人に増加すると見込まれ、在宅介護サービスの需要はさらに高まると予想される。要介護高齢者の在宅生活を支える訪問介護サービスの事業所ならびに従事者は2000年の介護保険制度創設当初と比べて約3倍に増加したものの、いまだに小規模な事業所が大半を占める。背景には、参入障壁の低さと、訪問介護サービスが持つ個別性という二つの要因がある。

事業所の小規模化は、調整コストの増大とマネジメント機能の低下をもたらす。利用者が一つの事業所でニーズを満たしきれず複数の事業所を併用せざるをえない場合に、連絡調整の負担が生じている。小規模事業所にとって、能力評価に基づく適切な処遇や研修、自然災害や感染症などのリスクへの対策、虐待やハラスメントの防止など、マネジメント業務の負担は大きく、ICTの導入や業務効率化も遅れている。これらの背景の下、小規模事業所では従業員の離職率が高く、事業の持続性に問題を抱えている。

訪問介護事業所が単体で安定的に事業を持続していくうえで、利用者数90人、月商350万円が目安とされる。現状では利用者100人以上の事業所は全体の3.8%にとどまる。単純に利用者90人当たり1事業所と仮定すると、適正な事業所総数は約11,500と算出され、その場合に一事業所当たりの従事者数は48人、うち常勤17人、非常勤31人となる。他の事業所の併設として副次的に訪問介護を提供している事業所を除いた訪問介護事業所は現在全国に約2万カ所とみられ、事業所の集約・統合が必要となる。

事業所の集約・統合にあたって、供給サイドについては、都道府県が事業所に対して指定申請時に業務継続計画(BCP)の提出を求めるなど、安定して経営ができるか否かを開業前に検討することを促すべきだろう。指定前に都道府県が市町村と協議する機会を増やし、サービス提供体制や介護資源の配置を考慮したうえで指定をすべきである。既存事業所に対しては、他事業所との連携を評価することや、再委託の対象範囲を拡大することによって、実質的な経営規模の拡大を促すことが考えられる。一方、需要サイドについては、需給バランスや情報の非対称性を踏まえると、利用者の選択による事業所の淘汰・集約は期待しづらい。ただし訪問介護の少なからぬ部分がサービス付き高齢者住宅の入居者に提供されているとみられ、利用者が事業所の近くに集住することは事業所の規模拡大に寄与すると考えられる。今後さらに生産年齢人口が減少しサービス供給の制約が厳しくなるなか、利用者が住み慣れた地域の範囲内で、事業所からほど近い場所に住み替えることも現実的な選択肢として考えていく必要がある。

公的介護保険制度の創設により、家族に代わって社会全体が介護を担う「介護の社会化」が進んだが、今後、供給不足により必要なサービスを利用できない状況が発生した場合には、逆戻りの状態に陥りかねない。親の介護を理由に早期に労働市場から離脱することは、生産年齢人口が減少していくわが国にとって大きな損失となる。少ない人員で効果的・効率的にサービスを提供するためには、事業所が安定的に経営できる規模にまで集約されることが重要である。


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