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JRIレビュー Vol.2,No.105

イベントリスクにおける国と地方の関係の再構築 -コロナ禍における対応を踏まえて-

2023年01月23日 高坂晶子


コロナ禍に際し、国と自治体の連携の悪さや役割分担をめぐる混乱が行政執行の障害となった。こうした問題は新興感染症のみならず、自然災害や国際紛争などのイベントリスク時にも発生する恐れがある。得られた知見を将来に活かすことが重要である。

国と地方のコロナ対応をみると、地方独自施策による感染拡大抑制など好事例がみられた半面、国の施策や財政支援への依存体質も明らかになった。他方、国は2000年以前に多用された通知行政に戻った感があり、①現場に負荷をかける通知の大量発出、②実態に合わず二転三転する内容、③法的裏付けを伴わない通知の頻出、が見られた。

こうした国の振る舞いは、1990年代以来の分権改革が目指す国と地方の関係、具体的には国の関与をルール化して行政執行の透明性と予見可能性を高め、責任の所在を明確にするという仕組みを毀損したといえよう。傷つけられた国と地方の関係を再構築し、イベントリスク発生時にも有効な役割分担の在り方を検討することが必要である。

これに対し、コロナ対応の混乱を理由に、地方分権の見直しと国への再集権化を目指す議論も聞かれる。しかし、これには様々な問題がある。第1に、発生確率が数年から十年に一度程度のイベントリスクに備えようとするあまり、地域事情に即した細やかな行政が日常的に困難となる恐れを軽視している。第2に、国の地方組織が一時的にせよ地域保健や住民救助等を直接行うことは、現状では非現実的である。第3に、混乱の相当部分は制度運用に帰することができ、この問題を残したまま再集権化しても事態は好転しない可能性が高い。

イベントリスク発生時における国と地方の新たな役割分担のポイントとして、3点指摘できる。第1は、全国のダメージや施策の実行状況、必要な支援等を一体的に把握することが可能な情報プラットフォームを構築し、国と地方の情報伝達コストの低減と意思決定の根拠の共有化を図ることで、イベントリスクへの対処能力を高める。第2は、平常モードからイベントリスク発生モードへの機動的切り替え、および一元化した施策の実効性を担保する仕組みの構築を急ぐとともに、集権の弊害に備え、平常時への復帰手順やトラブル発生時の解決手法を開発する。第3は、国と地方の協議の場を拡充するとともに、情報開示も強化する。双方の意識共有・意思疎通を改善することにより、国が地方との関係悪化を懸念して拘束力の強い関与を躊躇する傾向を解消し、一元的で強力なイベントリスク対応が可能な環境を整える。


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