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JRIレビュー Vol.2,No.105

法人所得課税をどう見直すか -ポストコロナ時代の法人所得課税の在り方-

2023年01月23日 蜂屋勝弘


わが国では、増加する社会保障費の財源確保や、赤字が続く基礎的財政収支(PB)の黒字化、さらにはその結果としての巨額の政府債務残高を抱えるなかで、安定的な財政運営をいかに継続するかが、長年にわたる大きな課題となってきた。そうしたもとで、ここにきて①脱炭素の実現、②少子化対策・子ども政策、③安全保障の強化といった中長期的な新たな政策課題が浮上している。これらによる追加の財政需要は年12兆円程度とみられ、社会保障費やPB黒字化と合わせ、財政運営全体としての財源確保という課題からもはや目を逸らせることはできない状況になっている。

財源として、脱炭素に向けたカーボン・プライシングの導入や、少子化対策を念頭に一段の消費税増税も選択肢として考えられなくはないが、いずれも負担の逆進性が懸念される。こうしたなか、世界的な法人税率の引き下げ競争に変化の兆しがみられ、わが国でも近年負担が軽減されてきた法人所得課税を、今後どうすべきかを改めて検討することが必要になっている。本稿では、今後の財源確保や国民負担における法人課税の在り方と、見直しの方向性について考察する。

世界的な法人税率引き下げ競争のなか、わが国でも1990年代後半に法人税率が引き下げられたものの、その後も各国が法人税率を引き下げ続けたため、2000年代後半にわが国の法人実効税率は、G7やアジア周辺国に比べて相対的に上昇した。しかしながら、2010年代に入ってわが国も法人税率を一段と引き下げたことで、現在、その差は縮小している。

わが国を含む各国は、対内直接投資等を通じた自国経済の活性化を狙って、法人税率を引き下げ続けてきた。一方で、近年、企業貯蓄の増加を受け、法人課税軽減による経済活性化効果に対する懐疑的な見方もでている。また、国境をまたぐ移動が容易な法人所得への課税が軽くなる一方で、国境をまたぐ移動が容易でない個人の労働所得や消費への課税が重くなる傾向が指摘されている。

こうしたなか、①各国ともコロナ禍を受けて大きく悪化した財政を立て直す際の財源確保が必要になっているほか、②2021年10月に最低税率の導入など法人所得課税の適正化に関する国際的合意が実現したことから、法人税率の引き下げ競争に歯止めがかかることが期待されている。

従前からの課題である財政再建や新たな財政需要のための財源の確保には、既存の歳出の見直しに加え、税負担の増加も視野に入れた国民負担全体の見直しは避けられない。国民負担の検討にあたっては、必要財源をどう賄うかを考えるなかで、経済主体間での負担の配分への目配りが不可欠である。基幹3税を中心に税制全体を幅広に見直すことが求められ、法人税も有力な財源の一つとして考慮することは避けられない。その一方で、現行のわが国の法人税制に様々な歪みが存在することを看過することはできない。法人税率引き上げの可能性を踏まえ、①租税特別措置の整理・縮小、②中小企業向け税制優遇措置の対象の選別基準の見直し、③繰越欠損金制度の見直し、④地方法人課税の縮小を併せて行い、企業間での税負担の不公平などの問題の是正に早急に取り組む必要がある。


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