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多店舗展開企業における業務改革施策の定着化のポイント

2023年01月19日 成瀬忠


 筆者は以前、当経営コラムのコーナーで「多店舗展開企業におけるウィズコロナ/アフターコロナ時代の人員配置モデルの考え方」と題し、多店舗展開企業の人員配置モデル策定のアプローチを紹介した。
 そこでは、人員配置モデルの策定にあたっては、現状の配置の考え方を見直すことから始めるのではなく、業務の棚卸しを行い、現状の店舗業務の課題と解決策を具体化し、人員配置モデルの前提となる「新業務の姿を明らかにしておく」ことが重要と述べ、「新業務の姿を明らかにしておく」ためのアプローチも紹介した。このアプローチは、実効性のある業務改革施策を具体化することに寄与すると考えるが、一方で、施策を着実に実行し各店舗に定着させることができなければ、「絵に描いた餅」で終わってしまう。
 そこで本コラムでは、新業務の姿と業務改革施策を明らかにした後に、それらを着実に実現するためのポイントについて述べる。筆者の考えるポイントは、大きく以下の4点だ。
 1. 施策の優先順位付け
 2. 店舗別の実行計画
 3. 達成度の見える化
 4. 継続的なきめ細かいフォロー

1. 施策の優先順位付け
 新業務を実現させるための各施策を一度に全て実現することは困難であるため、着実に実行・定着化させるには、施策の優先順位を適切に見極め、実行計画に落とし込むことが重要だ。優先順位の見極めにあたっては、以下の4つの基準を設定し、実現ステップを検討することが有効だ。

●期待効果
 施策による対象業務の削減量などから、効果の大きさを評価する。削減業務量を想定するには、対象業務の実施頻度の高低や、1回あたりの削減業務量の大小に分解して検討すると評価しやすい。
 ここでの留意点は、効果を細かく精緻に数値化することにこだわり過ぎないことだ。あくまで施策の優先順位を判断するための材料のひとつと割り切って、大中小などの3段階程度で評価すれば十分だ。この留意点は、以下に挙げる他の基準も同様だ。

●業務遂行上のリスク
 施策を実行しないことで発生しうるリスクの事業や業務への影響度を評価する。例えば、事業、業務、サービスなどの品質、継続性に直結するようなリスクであれば「高」、間接的に影響を及ぼすリスクであれば「中」、特に特筆すべきリスクがなければ「低」と判定することが考えられる。

●実現難易度
 組織・役割分担や、制度・ルールの変化がどの程度必要かを評価する。一般的に、これらの変化が大きいほど、実行前の詳細検討や調整に時間を要することが多い。明らかに難易度が高く時間を要する施策は、いくら効果が高くても、中長期的な施策に選別せざるを得ないので、効果の大きさだけでなく、難易度を見極めることも重要な視点といえる。例えば、取引先などの社外を含めた調整が必要な場合には「高」、複数の営業部門・管理部門をまたいで調整が必要な場合には「中」、管理部門内の調整のみで実行できる場合には「低」と判定することが考えられる。

●対応コスト
 必要な投資額の規模を評価する。一般的によく言われる「投資対効果」、「費用対効果」の「投資」、「費用」の部分に該当する。例えば、大規模な情報システムの改修または統合や刷新が必要な場合には「高」、小規模の情報システムの改修が必要な場合には「中」、情報システムの改修が不要な場合には「小」と評価する。情報システムの改修・統合・刷新コスト以外にも、施策を実行するために人件費や設備投資などの費用が発生する場合には、それらも含めて評価する必要がある。

 以上に挙げた基準を設定して総合的に各施策の優先順位を評価し、どの範囲からどのようなステップで施策を実現していくのかを検討する。一般的には、組織・ルールの変更やシステム改修が不要で、時間や労力をかけずに実施できるものや、放置しておくリスクが極めて高いものなどが短期施策として選別され、組織・ルールの見直しや調整に時間を要するもの、システム改修に時間やコストを要するものなどが中長期施策として選別されることになる。



2. 店舗別の実行計画
 多店舗展開企業では、全店舗同時に施行できない施策も存在することが多い。例えば、以下のような施策だ。

●集約先の必要人員を一度に確保することが難しいので、段階的に集約する施策
●店舗に新しい業務ルール・手順などを丁寧に説明する必要があり、現場ごとに順次説明していく必要がある施策
●機器・設備導入に現地調整が必要な施策 など

 このため、店舗ごとに、どの施策がいつ実行されるのかを明確に周知し、順番に漏れなく実行することが重要だ。これにより、店舗にも業務が切り替わる時期がはっきり認知され受け入れ態勢が整いやすくなるメリットがある。図2に示すように、施策を店舗に展開する前に、施策別・店舗別に施策施行日を整理し周知することが必要だ。



3. 達成度の見える化
 多店舗展開企業の業務改革施策の実行段階では、以下に挙げるようなことが原因で、思うように想定した効果が出ないことが少なくない。

●廃止されたはずの業務が本社所管部門の指示により継続されている
●移管されたはずの確認作業が店舗では引き続き実施されている
●簡素化されたはずの業務が店舗では従来通り実施されている
●特定の店舗ではそもそも従来から該当業務の業務量が少なかった など

 上記以外にも、いくら計画を綿密に策定したつもりでも、実行段階で想定外の事態が生じることはしばしばある。このため、実行段階で効果が出ていない施策や店舗を早期に発見し、是正を図りやすい仕組みをあらかじめ計画段階で検討しておくことが重要だ。そのためには、定着化の達成度を定量的に評価するための指標と、評価方法を明確にしておくことが有効だ。
 評価指標の例としては、総業務量や施策別業務量などが挙げられる。総業務量では、店舗ごとに、全体でどの程度総業務量を削減できているかを評価する。施策別業務量では、施策ごとに、想定した削減効果が得られているかを評価する。
 評価方法の検討事項の例としては、評価指標のモニタリング頻度、評価者や、評価指標の収集方法などが挙げられる。評価指標の収集方法とは、評価指標を算出するための情報をどのような手順・方法で収集するかを定めることを指す。計画段階で、評価指標を簡単に算出するためのIT化施策もあわせて検討しておくことも有効だ。例えば、業務量を指標とする場合、毎月業務量を集計する必要があるが、入力や集計作業の手間を低減するために、ITツールの活用を検討するのも一案だ。ただし、このためのIT化の投資対効果とのバランスには留意が必要だ。

4.継続的なきめ細かいフォロー
 業務改革施策の成果が出るまでやり切るためには、「3. 達成度の見える化」でも述べた通り、実行段階で成果が出ていない施策や店舗を早期に発見し、是正を図りながら施策の落とし込みを推進できるかが重要だ。そのためには、改善が進まない店舗に対し、改善が進むまで継続的にきめ細かくフォローできる体制を整備する必要がある。
 特に、実行の初期段階では、店舗によって施策の背景・目的や意図の理解度に差が生まれ、成果にばらつきが生じやすい。中には、変化を恐れて惰性で従来の業務を続けてしまっている店舗が見受けられることもしばしばある。こういった状況では、時間を割いて粘り強く是正を指導する体制の重要性が増す。時には、指示に従わない店舗を特定して厳しく指導したり、店舗のマネジメントスタッフとじっくり話し合って説得したりすることも必要になる。このため、本部の施策推進チームには、店舗の実務経験があり、ベテランの店長クラスに対してもフラットに意見を言えるポジションの人材を配置できるかが鍵だ。さらには、本部の別部門から、業務改革方針や施策と相反する依頼や指示が出ている場合などには、当該部門に意見や要請を出すことが必要になることもあるため、本部の各部門のキーマンにもフラットに意見を言えるポジションであることが望ましい。
 このような人材はどの企業でも限られた人数しか存在しないことが多いが、業務改革施策を実行し成果を挙げることを経営課題として重要視するのであれば、この体制整備に力を注ぐべきだと考える。成果を挙げるには、緻密で実効性のある計画を策定することも非常に重要だが、それだけでは不十分であり、実行段階の推進体制に強力な人材を配置し、成果が出るまで執拗にフォローしきれるかが成否を分けるといっても過言ではない。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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