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アジア・マンスリー 2023年1月号

中国政府は金融危機回避に軸足

2022年12月26日 関辰一


中国では、不動産市場の調整が金融危機に発展するのではないかという懸念が高まっている。しかし、当局はリスクの封じ込めに政策の軸足を移したことから、当面は金融危機が回避されるとみられる。

■金融危機が懸念される背景
中国では、非金融企業債務の対GDP比がバブル期の日本と同等の高水準に達するなど、債務の規模は危険水準にある。非効率な事業や設備が累積しており、債務返済能力が懸念される企業は増加している。なかでも、不動産開発企業の債務返済能力の低下が顕著であり、住宅価格も下落し続けている。この結果、不動産市場の調整が金融危機に発展するのではないかという懸念が高まっている。

ここ10年間における融資や固定資産投資の拡大は、効率的な資源配分の障壁となっている。銀行融資残高の伸び率が経済成長率を上回る状況が続いているため、銀行融資残高の対GDP比は2015年末の130%から2022年9月末の170%まで上昇した。これは、GDPを1単位高めるために必要な融資額は増えており、資金効率が低下していることを示唆する。

近年の融資拡大は、情報通信機械や自動車、産業用ロボットなどの戦略的産業の育成に寄与しているものの、産業の高度化に資するこれらの分野の借入金の増加額は比較的に小さく、むしろ、都市開発に従事する建設業や不動産業の借入金の増加額の方がはるかに大きい。金融機関全体の不動産向け銀行融資残高の対GDP比は、2015年末の30%から2022年末9月末の44%まで上昇した。内訳をみると、住宅ローンが全体の76%、不動産開発企業向けが24%である。

こうしたなか、不動産市場における販売の急減や、価格の下落による影響が注目されている。すでに、不動産開発企業の資金繰りの悪化から住宅建設工事が止まり、その結果、物件が約束した期日に引き渡されない問題や、購入者が住宅ローンの支払いを拒否する問題も起きている。不動産向け融資の不良債権化や融資担保価値の下落などにより、一部の金融機関は自己資本が不足するリスクに直面している。

■当局はリスクの封じ込めに注力
しかし、以下の3点から、大規模な金融危機は回避されると考えられる。第1は、公的資金の投入が迅速に行われると予想される点である。近年、金融機関へのモニタリングが強化された結果、当局は各金融機関が抱えるリスクの大きさや、危機対応に必要な公的資金の規模などを的確に把握するようになった。また、先進国では特定の金融機関に公的資金を投入することは国民の反発を招きかねないことから政治的なハードルが高い一方、中国の場合は当局の介入による金融市場の安定化を期待する声が国内で大きく、このハードルが低い。

実際、錦州銀行など中小金融機関が経営破たんのリスクに直面した際、国有銀行や国有資産管理会社が早期に出資を表明して、金融市場に不安が広がることを防いだ。ゼロコロナ政策や不動産市場の調整により金融機関の経営が悪化するな か、政府は2020~21年に地方政府特別債を財源に計2,100億元を約300行に投入し、中小金融機関を全面的に支援した。2022年には追加で3,200億元の公的資金を注入するなど、中国政府は公的資金の投入を躊躇しない姿勢を見せている。

第2は、金融機関に対する政府のコントロールが強いため、金融機関の相互不信や企業へ大規模な与信削減が生じにくい点である。近年、経済成長が鈍化し、企業の業績が振るわないなかでも、金融機関は積極的な融資姿勢をとっている。これは、当局が窓口指導やそれを深化させたMPA(マクロプルーデンス評価)といった金融機関の融資に直接働きかける政策手法をとっているためである。

コロナ禍が始まった2020年以降、政府は、企業の資金繰りを支援するため、借り手の返済能力に問題が発生したとしても、積極的な融資姿勢を保つこと、融資の返済期限を延長することなどを要請した。2020年に金融機関が返済を猶予した元利金は合計7.3兆元であった。MPAとは、定期的に行われる金融機関に対する評価と指導であり、中小企業や製造業の中期貸出への評価を引き上げることで、金融機関に積極的な融資を促した。2022年10月の党大会で、金融機関に対する党の指導を強化するとされたように、今後、政府の金融に対するコントロールはさらに強まると考えられる。

足元では、不動産開発企業向け融資は政府の融資規制を主因に低迷しているものの、2022年11月に当局が書面で最初の本格的な金融支援措置を打ち出したことで、今後、融資が徐々に拡大すると考えられる。今回の金融支援措置には、国有企業、民間企業を問わず、不動産開発企業の合理的な資金需要に対応する、あるいは、通知の発表日から半年以内に返済期限が到来する融資の1年間の期限延長を認め、不良債権として計上しなくともよいとするなど、16項目の措置が含まれる。金融機関が政府の要請に応え、融資を再拡大することで、不動産開発企業の資金繰りの悪化に歯止めがかかると見込まれる。

第3は、固定資産投資の拡大により景気の回復が期待される点である。習近平政権は、景気減速のたびに、国有企業や政府と関係の深い民間企業を活用して、固定資産投資を拡大することで、景気の下支えを図り、その結果、金融機関が抱える潜在的な不良債権は減少に転じ、金融危機のリスクは遠のくというパターンを繰り返している。2023年は、ゼロコロナ政策の見直しに伴う行動制限の緩和に加え、政府が主導して投資が拡大することで、成長率は上向くと予想される。
もっとも、こうした政策対応は問題の先送りに過ぎない。中国経済が中期的には低成長局面へ移行していくなかで、リスク封じ込め策の難度は時間の経過とともに上がっていくであろう。

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