ビューポイント No.2022-011 世界経済の新フェーズと物価動向の局面変化―高コスト・インフレの時代到来で懸念される企業・家計共倒れ― 2022年12月08日 山田久長らくデフレ・低インフレ基調にあったわが国の物価動向に変調がみられる。消費者物価上昇率が約40 年ぶりの高さとなるなか、2023 年春季労使交渉を控え、賃上げの前提となるインフレ率が今後どう推移するかに注目が集まっている。インフレ率の高まりの底流には、地政学的枠組みが変わり、世界経済が第2次大戦後の「第3フェーズ」に入ったことがある。それは、米国の世界覇権の弱体化、米国と中国の対立激化、中国の経済成長の鈍化を基調とし、「戦略的グローバリゼーション」「エネルギー制約」「労働力不足」を特徴とする。これら3つの特徴はすべて供給面での資源制約に作用するファクターであり、その結果としてデフレ・ディスインフレの時代は終わり、高コスト・インフレの時代が到来している。世界的なコスト高・インフレの波はわが国にも押し寄せている。企業物価は第2 次石油危機以来の上昇ペースとなり、生産・流通の各段階で価格転嫁が徐々に進んでいる。企業物価の各段階での価格転嫁が進むなか、その影響は消費者物価段階にも及び、食料・エネルギー以外の分野にもインフレ圧力の高まりの広がりがみられる。現時点での大方の予想通り、2023 年後半以降インフレ率が1%台に落ち着いていくかは予断を許さない。そうしたなか名目賃金の伸びは緩やかで、実質賃金が目減りして家計の実質消費は低迷している。値上げによる需要減を懸念する企業はコスト増の十分な価格転嫁ができていない。この結果、「企業部門の利潤圧縮」と「家計部門の実質支出減少」の同時進行という、企業・家計共倒れの構図が懸念される状況にある。家計が生活水準を維持するためのみならず、消費者が購買数を大幅に減らさず値上げを受け入れられる環境を作るために、企業にとっても持続的な賃上げの緊要性はかつてなく高まっている。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)