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アジア・マンスリー 2022年11月号

増加する中国の潜在不良債権

2022年10月27日 関辰一


中国では、潜在不良債権が大幅に増加している。ゼロコロナ政策や不動産市場の調整を受けて、金融機関は不良債権化しやすい債権を抱え込むようになっている。

■潜在不良債権は大幅増加
中国では、潜在不良債権が増加している。潜在不良債権とは、広義の営業キャッシュフローである利払い前・税引き前・減価償却前利益(EBITDA)が支払利息を下回る企業が抱える債務を指し、それらを返済が滞る可能性の高い債権と見なしたものである。

上海、深セン、北京の各証券取引所に上場する企業(非金融企業)のうちデータのとれる約3,800社の財務データを基に試算すると、2022年央の潜在不良債権は1兆6,854億元、潜在不良債権比率は9.6%に達している。特に大きく上昇したのが2020年と2021年であり、新型コロナの感染拡大を契機に潜在不良債権が急速に増加したといえる。

このサンプルデータを基に、中国全体の潜在不良債権を試算すると、2022年央で19.7兆元となる。これはGDPの16.9%に相当する規模であり、不良債権が中国経済の重しになっていることが読み取れる。

中国政府が公表している統計では、コロナ禍によって不良債権が大きく増加していることを把握することが難しい。政府統計によると、2022年央の商業銀行の不良債権は3.0兆元にすぎず、不良債権比率も2020年央をピークに緩やかに低下している。

この背景として、政府が景気下支えのために融資拡大を後押ししたことが指摘できる。その手段として、まず、ロールオーバーの要請が挙げられる。2020年以降、政府は、企業の資金繰りを支援するため、借り手の返済能力に問題が発生したとしても、金融機関に積極的な融資姿勢を続けるよう要請した。既存借り入れ分をロールオーバーさせたほか、新規借り入れも増やすことによって、金融機関全体の融資残高のGDP比は、2019年末の155%から2022年央には176%まで上昇した。加えて、政府は、不良債権の認定基準を見直して、返済状況が悪化しても不良債権に分類されにくくした。これらの措置によって、不良債権の政府統計は実態を反映しなくなっている。

■非製造業の潜在不良債権の増加が顕著
上場企業の潜在不良債権を業種別にみると、非製造業の増加が著しい。2022年央の上場非製造企業の潜在不良債権は1兆2,447億元と、2019年末に比べて4.9倍に増えた。この結果、上場非製造企業の潜在不良債権比率も10.8%に急上昇した。

この理由として、以下の2点が指摘できる。第1は、わずかな感染も許さない「ゼロコロナ政策」である。感染が発生した地域では、店舗の営業や公共交通機関の停止、幹線道路の閉鎖といった事実上の都市封鎖が行われたほか、厳しい外出制限が実施され、多くの非製造業企業の収入が急減した。

とりわけ、運輸・倉庫の潜在不良債権比率は0.4%から31.1%に大幅上昇となった。国家統計局によると、2022年1~6月の幹線道路、鉄道、飛行機、船舶を合わせた旅客輸送量は2019年同期から▲68.5%の減少となった。この結果、運輸・倉庫業では、営業キャッシュフローで支払利息を賄えない企業が大幅に増加した。

飲食・宿泊業の潜在不良債権比率も同1.2%から18.9%へ大きく高まった。文化旅行部によると、2022年の春節連休の国内観光収入は2019年同期から▲43.7%の減少となった。

第2は、不動産市場の調整である。政府は、住宅価格の高騰や不動産企業の過剰投資を警戒し、2020年から過熱抑制策を需要側と供給側の両面から講じた。需要抑制策として住宅ローン総量規制や住宅購入規制が実施されたほか、供給抑制策として不動産企業向け融資を規制した。これにより、住宅販売が大きく減少した。国家統計局によると、2022年1~6月の分譲住宅販売床面積は2019年同期から▲12.3%の減少となった。資金繰りに行き詰まった一部の不動産企業は住宅建設工事を止めざるを得なくなり、不動産業の潜在不良債権比率は2019年末の3.2%から2022年央の22.9%へと大幅に上昇した。

一方で、製造業の潜在不良債権比率は2019年末の8.3%から2022年央の7.2%へと小幅に低下した。ゼロコロナ政策によるサプライチェーンの混乱が足かせとなったものの、コロナ禍でパソコンなどのICT機器の需要が高まり、世界への財輸出が大幅に拡大したためである。

ゼロコロナ政策や不動産市場の調整を受けて、金融機関は潜在不良債権を一層抱え込むようになっている。中国がウイズコロナに転じることができれば、非製造業の経営環境は改善するとみられる。しかし、習近平総書記は党大会で今後も感染拡大を抑制していくと表明し、ゼロコロナ政策の継続に意欲を示した。ゼロコロナ政策に加え、不動産市場の調整も長引くと予想されるなか、今後も潜在不良債権が高止まりを続けると予想される。
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