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ミニカーEVの新たな活用可能性について

2022年09月27日 福永健二


 2022年6月、日産自動車・三菱自動車工業からそれぞれ軽電気自動車が発売され話題を呼んだ。うち日産自動車の「SAKURA」は7月末時点で2.3万台の受注に達したとされ、これは昨年1年間の電気自動車(EV)の販売台数を超えるなど、早くも日本のEV市場を牽引する存在となっている。航続距離でこそ180㎞と「リーフ」の半分程度ではあるが、近所への買い物や送り迎えなど近距離移動が多いユーザーにとって、50㎞もあれば普段使いでは十分といえよう。補助金を加味すると、軽のガソリン車ほどの価格で購入できることもあり、安価で日常ニーズにフィットした車両として人気を集めているものとみられる。

 このように目下盛況を博すEV市場であるが、本稿では商用の小型EVに目を向けたい。日本郵便では軽バンEVを集配車に採用、佐川急便でも配達車両に軽区分の小型EVを採用することを決め、順次置き換えを行っていく計画としている。このように商用車をEVに代替する動きも盛んである。地域の中を頻繁に行き来する商用ニーズにこそ、EVとの高い相性がある。

 日本総研では、昨年度、経済産業省「無人自動運転等の先進MaaS実装加速化推進事業」において実証実験の支援を行った。ここでは、軽区分よりさらに小さいミニカー区分の車両を配送に用いることを検討した。現在、軽バンを用いている配送事業者や原動機付自転車(原付)を用いているデリバリー事業者からの協力を得て、ミニカーEVを業務での配送に利用してもらったのである。

 ミニカー区分の車両は道路交通法では普通自動車、道路運送車両法では原付扱いとなる。ちょうど原付と軽自動車の間のような区分にあたる。実証実験の実施前には、「軽バンに比して動力性能が足りないのではないか」、「原付に比べ操作性・機動性に欠けるのではないか」などの心配も寄せられたが、実際には予想を上回る活躍を見せた。配送ドライバーへのヒアリングでは、「急峻な山間部でも十分加速でき問題なく走行できた」、「バイクとほぼ変わらない配送効率で回ることができた」、「数十人分の弁当など大量の出前注文が入った際に従来複数の原付バイクで向かっていたものが一回で済んでよかった、今後もぜひ使いたい」などのポジティブな声が複数聞かれた。

 ミニカーの特長として、道路運送車両法上は原付扱いとなるので、有償での貨物輸送に際して事業登録が不要である点が挙げられる。そのため、原付や自転車に代わり、ミニカーEVを用いた配送業務を、個人に有償で委託することが制度上可能である。つまり、小売店等が配送業務において人手不足に陥った際には、気軽に周辺住民に配送業務を代行してもらうことが可能だということを意味する。こうした住民との連携による配送は、近年ますます増加する宅配需要に対し、不足するラストワンマイル配送の担い手を確保する有効な一手段となり得るのではないかと考える。

 また、配送用途のみならず、例えば、電気・ガス会社・金融機関などが行う地域巡回業務にミニカーEVを活用することも十分考えられよう。こうした業務で軽バンに積みこむ荷物は実際にはごく少なく、ミニカー程度の積載容量で十分のようである。また、車両の稼働率も数%程度に留まるところもあると聞く。

 ミニカーEVをはじめとする小型EVはシティーコミューターとしての色も強く、シェアリングサービスの実証実験も行われている。例えば、同様のシェアリングシステムを用いて、土日など休日や使用していない時間帯に、こうした車両を住民に開放し共用すれば、事業者にとっては資産としての有効活用が見込めるのではないかと考える。

 各自動車メーカーなどサプライサイドでは、現在、より安価で航続距離を100km程度まで高めたミニカーEVの開発が進むなど、意欲的な動きも確認される。冒頭に述べた軽EVの登場も手伝って、テスラなど高級EV市場と二分する形で小型EV市場が拓かれようとしている。市場には、車両区分に依らない様々なニーズが存在する。日本総研では、原付相当の機動性と、軽自動車並みの積載能力・動力性能を兼ね備えた「良いところどり」となる車両の可能性に期待している。今後も政府機関や企業と協力しながら、小型EV市場の可能性を掘り起していきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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